『‥だからその言い方も駄目なんだよ。“日番谷”とかで慣らしとけ』
 
 
『それこそ駄目!“ひつがや”って呼ぶとシロちゃん、敬語になるんだから!』
 
 
二人の日常風景。
参考書の山は、寂しそうに机の上に放っておかれ。
その隣の花瓶に入った小さな花は、甘い香りで部屋を満たしていた。
 
  
そんな空気を変えるように。
日番谷の口から、こほん、と咳払いひとつ。
 
 
『‥そろそろ数学しますよ?きちんと集中して終わらせたら、敬語外しますから』
 
 
 
『‥ほんと?』
 
 
桃の、日番谷の服を握ったままの手が緩む。
 
 
『時間なくなると困るので』
 
 
桃の頭に手を置いて、肯定の意を示す‥と。
 
 
『ひつがや、大好きっ!!』
 
 
桃はぎゅうっと抱きついて頬を寄せた。
桃自身の甘い香りが日番谷の鼻腔をくすぐる。抱きつくのも、幼い頃から仲のよかった二人には慣れたことで。
 
 
『‥こんな時だけ“ひつがや”と呼ぶのはずるいですよ‥お嬢様。』
 
はぁ‥と息を吐きつつも優しい表情で、桃の頭を撫でた。
 
 
 
 
 
 
 
 
‥約二時間後、壁にかけられた時計の針が、真夜中に近い時間を指した。
 
 
『‥お疲れ様でした。お嬢様』
 
『あっ、シロちゃん!‥約束は?』
 
 
くたっとしながらも、笑顔を溢れさせる。
 
 
『‥わかってる、桃』
 
 
しょうがねえな、と日番谷は二時間前のように頭に手を置いて。桃は、それを気持ち良さそうに受け入れた。
 
 
 
『‥猫みてー‥』
 
 
『ふに?』
 
 
 
音のほとんどしない、静かな時間。
あまりにも流れる空気が心地よくて、日番谷の手が温かくて。
 
 
ふわり、ふわり、と。
 
飛んでいってしまいそうな。
 
 
 

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