炭酸のはじける水色。
閉じ込められた、ガラス玉。
“また明日ね”反響する、声。
 
 
 
柔らかな布団に包まれていた。薄く開いた瞳に映るのは、周りを囲う布と壁。
 
まだ動かしづらい脳に無理矢理「起きろ」という命令を送らせ、冬獅郎はそこから這い出す。充満する消毒液やアルコールの匂いにカーテンを開けば誰もおらず、ガランとした保健室を抜けて廊下に足を踏み出せば、夕陽が差し込んでいた。
 
『あら日番谷くん起きたのね?貧血はもう平気?』
書類を抱えて戻ってきた保健医に、大丈夫です、と軽く頭を下げてから廊下を進んでいく。
タンタンタン、と向こうの方の階段で足音が鳴っているのがわかる。
 
静かだ、と思った。冬獅郎にとってこの上なく心地良い時間、空間。別に一人がいい、というわけでもなくて。単純に騒がしいのは苦手だった。
 
耳にいつまでも残るような、彼女の声も。
 
 
『日番谷くん?』
 
りん、と鳴るような声。
 
 
『‥雛森』
朱に染まる玄関で、ポニーテールが揺れていた。斜めに入り込む夕陽のせいで、若干影は伸びて長い。雛森の声は高くて、綺麗で、耳に反響して残る。
それでいて侵食していくのだ、冬獅郎の心に。
 
『またか‥無駄に世話焼いてくんなよ、うっとうしい』
冷たい声が響く。半分本当で、半分は嘘の言葉。
 
『そんなこと言って‥また貧血で倒れたんでしょ?栄養バランス悪いものばっかり食べてるからだよ、日番谷くんのバカ』
 
『うるせえな』
‥この声だ。何かと構ってきたがる雛森は単なる世話焼きで。煩わしく感じる一方、いつも助けてくれる彼女の存在に冬獅郎は少なからず感謝していた。
だから本当に邪険には扱えないのだ。
 
 
‥例え心を縛って支配していくその声が、どんなに気に入らなくても。
 
 

 
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