クリスマスクエスト

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こんにちは、梅です。今、体育館の扉の前で困ってます。……って、私誰に話してるんだろう。
クリスマス当日も、変わらずバレー部は部活があるらしく、中から声が聞こえてくる。プレゼントを渡すついでに練習見れたらいいなぁ、とか、思ったんだけど、いざ体育館に来てみると扉を開ける勇気が出ない。いつもより大きくて重たそうに見えて、ゲームの中の魔王さまみたい。中から聞こえてくるバシーンって音すらも今の私をビクビクさせるには十分で、持ってきたプレゼントが入ったかばんをぎゅーっと抱きしめた。
「あれ、何か用?」
「な、な、なんでもないですごめんなさい!!」
そんなタイミングで目の前に現れた男子に驚いて、とっさに謝って校舎まで一目散に逃げ出した。後ろから旭さんの声がした気がする。もうちょっとがんばってあそこにいたら渡せたのに!なんであそこでちゃんと説明できなかったんだろう…。
「はぁ……」
白いため息が口からもれて消えていく。見上げた空は気持ちが良いくらい晴れ渡っていた。
「っていうか、さっきの隣のクラスにいる人だよね、たぶん。先輩じゃないんだから話せると思うんだけどなー」
後からならそんなことも言えるんだけど、もうどうにもならない。もう一回行ったら変な子だと思われちゃうかなぁ。ちょうどよく旭さんが出てきてくれたりとか……しない、か。
そっとかばんの中のプレゼントを覗いてみる。控えめにリボンの付いたそれは、お財布やハンカチに比べてずっと存在感を放っていた。これをこのまま持って帰るわけには行かない、と自分で自分の背中を押す。
今にも止まりそうな足を恐る恐る踏み出しながらもう一度体育館へ向かう。今度は扉が開いてるから、そのまま入ればよさそう。よーし、このまま
「ボール外に転がっても大変だから、ドア閉めとくっスね」
行こうとしたところで閉められてUターンした。あの人は確か先輩だ。勝てない人だ。
「うわー、どうしよう……」
またしても立ちふさがる扉の存在に、もう帰ってしまおうか、なんて考えが強くなっていく。学校に来てから何度目なのかもうわからないため息と一緒に、校舎の壁に寄りかかって座り込んでしまった。
「やっぱり梅ちゃんだ。何してるの?」
「えっ」
ずっと下を向いていたので、近づいてくる菅さんに気付かなかったみたい。練習着の上に長袖ジャージを羽織っただけの菅さんは、私の隣に腰掛ける。

「……という、わけでして」
「影山と田中かー。運が悪いというか、なんというか」
「私がもっとはっきりしっかりすればよかったんですよ……はぁ」
ここまでの話を菅さんに説明する。適度に相槌を打ちながら聞いてくれるので、とても話しやすい。
「んじゃ、一緒に行くか!1人じゃないほうが、行きやすいべ」
「ありがとうございます!」
「俺がこんだけ離れてる時点で、たぶん旭も気づいてると思うけど」
「あ、ごめんなさい!」
いいっていいって、と笑いながら、私の隣で歩き出す。気分は勇者についていく村人A。私が苦労していた扉はあっさり開けられて、一斉に向いた視線に思わず菅さんの背に隠れた。
「梅ちゃん?」
「旭さん!」
聞きたかった声が聞こえてばっとそちらを見た。ぽかんと口を開けた旭さんが私達の方に向かってくる。
「彼女はしっかりかまってやれよ、ひげちょこ」
「い、いえっ練習中にごめんなさい!!」
「えっと、練習、見ていく…?」
「外で待たせる気ですか旭さん!」
「そっか、そうだよね。えっと…」
「あの!適当に座って見てるんで、大丈夫です!気にしないでください」
あたふたとする旭さんにそう言って、壁にくっつくように座る。ちょうど試合形式の練習をするところだったらしく、練習とはいえ飽きないで済んだ。コート上の旭さんはさっきあたふたしてた人とはまるで別人で、ずっと見入っていたせいで大地さんにまたからかわれた。
「ずいぶん待たせちゃったね。練習帰りに梅ちゃん家によるつもりだったのに」
「バレーしてる旭さんが見たかったんですよ。好きで来たんだから、いいんです」
「あ、そうだ。プレゼント」
かばんから可愛らしくラッピングされたプレゼントが出てきて少し驚いた。
「彼女にって言ったらこんなにかわいくされちゃって。ちょっと恥ずかしいんだけど」
「じゃあ、私からも」
渡したくてがんばったプレゼントがようやく旭さんの手に渡る。かばんが少しだけ軽くなって、心まで弾みそう。早速開けるとすぐに、旭さんが笑い出す。
「どうしたんですか?」
「梅ちゃんのも開けてごらんよ」
言われてラッピングをはがすと、納得して私も笑ってしまった。私も旭さんも、プレゼントがマフラーだったのだ。
「同じものとは思ってなかったよ」
「どうせだから、巻いて帰りましょうか」
「なんだかペアルックみたいで照れるね」
それぞれがそれぞれのマフラーをくるっと巻いて、にこにこしながら手をつないで帰った。
ハッピークリスマス!


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