趣味しこう

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「吉良いるー?」
探すというよりは声をかける感じで台所をのぞいた。この時間ならため息つきながら夕飯を作っているはず。でも、帰ってきて早々かばんと上着を放り出して小走りで向かった先には誰もいなくて、意外に思った。
「あれ、どこ行った?」
どこにいるのかっていうか、まぁ、先に思ったのは夕飯遅くなっちゃうじゃないかってことなんだけども。あとから帰って来るとしたら玄関に放り出しっぱなしだと怒られるから片付けに戻る。DIOは多分もう少ししないと起きてこないだろうし、カーズは寝てるっぽいしボスドピは相変わらず押入れだ。この時間がボクにとっては一番静かな時間。
「椿!いつもここに物を散らかすなと言っているだろう!」
「あ、ごめん吉良……って、手を持って帰って来る時は何かにしまって来い!!」
珍しく吉良のせいでその静寂が破られた。まだ少し血のついた手首と手を繋ぎながら帰ってきたら叫んでしまうのは仕方ない、というか正常な反応だと思う。
「この辺りはこの時間人がいないからいいだろう。そう騒ぐな」
「騒ぐわ!なんで手繋ぎながら帰ってくるの!?」
「椿は手を繋がないのか?」
「論点はそこじゃない」
いつもは一番の常識人なくせに、手のことになると別人のように異常者になる。改めてこの荒木荘には普通の人がいないんだなぁと実感する。外のカラスやら野良猫やらのほうがきっと性格がよくて癖がない。今日の夕飯かけてもいい。
「冷たい手と手を繋いだって楽しくないでしょう」
「そんなことはない。体温は重要ではないよ」
「そう?わっかんないなぁ」
試しに誰のだかわからない手に触れてみる。切り取られてるし外寒いし、案の定冷たい。でも、無機物の冷たさとはどこか違って、不思議というか不気味というか。
「吉良の手も十分冷たいけどね」
そう言いながら吉良の手にも触れてみる。ごつごつとした冷たい手はさらに冷やされたようで曲げ伸ばししたらぎしぎし音がしそうだ。
「ボクには手袋しろって言うくせに、自分はしないよね」
「椿の手はあたたかいな」
「ちゃんと手袋するからね」
ぐぐぐっと吉良の手がボクの右手を包み込む。左手で更に上からかぶせると、吉良の表情が柔らかくなった気がした。こうして重ねると、大きさの違いがよく分かる。ボクの手だってそんなに柔らかい方ではないけれど、吉良の方がずっと固そうだ。
「お前の手も貰いたいものだ」
「散々お前の手はなってないとか言ってたくせに」
「死んだら記念に貰ってやろう」
考えなしな発言に、思わず笑ってしまう。お前はどんだけ生きてるつもりだおじさん。化け物じみてるでしょそれ。死んだ後くらいあげるけどさ。

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