名前と自信 名前変換 バレーのネットもそのまま、ボールもいくつか転がっている体育館の隅っこで、お弁当1つ分の間を空けて私は旭さんの隣に座っていた。今日は何もなかったから、ちょっと覗いていけたらいいなぁと思って体育館に寄ったのに、ちょうどよくお昼の時間に重なったおかげでこうして旭さんの時間をもらっている。菅原さんと月島くんがさり気なく協力してくれたところも大きいから、心のなかでお礼を言っておいた。本当は本人に言ったほうがいいのかもしれないけど、菅原さんに直接っていうのは勇気がいるし、月島くんはきっと僕は何もしてないよ、みたいなこと言うだろうなって。 「あ、そういえば最近、友達が他校バレー部の、及川さんの話ばっかりするんです。及川さんって知ってます?」 ふと、最近よく話している友達の姿が浮かんで、私は隣でおむすびを頬張る旭さんにそうきいてみる。途端に旭さんの動きが止まって、あぁ知ってるんだなぁと返事より先に理解した。 「城西のキャプテン、だよね。影山の中学の先輩だ」 「影山くんの?それは知りませんでした。やっぱり及川さんもうまいんですか?」 「うん。セッターとしての実力もすごいけど、サーブも正確で。強敵だよ」 「へぇ。あんまり、及川さんのバレーの話って聞かないから、なんだか印象が違いますね。その子から聞く及川さんって、なんていうか、優しかったり子供っぽかったり、かわいい感じなんですよ?」 「あ、うん、そうなんだ」 一旦止まってたから言葉の歯切れが悪いのかと思って気にしないで話続けてたけど、その後も話し方が直るどころか、だんだん声がしおらしくなっていく。おかずのナゲットを飲み込んで隣を向くと、大きな体を丸めて旭さんが小さくなっていた。だらんとした腕は食べかけのおむすびを持ったままだ。 「ど、どうしたんですか?具合悪くなっちゃいましたか?あの、大丈夫ですか?」 「体調悪いわけじゃないから、大丈夫」 「じゃあ、どうしたんですか?」 「いや、ちょっと、自信喪失、かな」 「?」 「特に好意を寄せてるとかそういうことじゃないのは分かってるんだけど、相手が相手だったりするからさ」 私から目をそらした旭さんがぼそぼそと言う。この人は自信がなくなると私の方を全然見てくれなくなって、背中ばっかり見ることになる。捨てられた箱のなかで雨にぬれる子犬みたいなしょぼくれ方に、私は頭をなでながら言った。 「私は旭さんが大好きですから、安心してください」 ゆっくりと上がる目線が私を見てくれて、嬉しくてにこっと笑ったら、旭さんもふにゃっと笑ってくれた。 「ありがと、梅ちゃん」 あぁ、その顔大好きです。 その他TOPへ/小説TOPへ |