ずっとずっとずっといちばんきみが好きだよ






同田貫と御手杵は、大学時代からの知り合いで、というよりも、大学時代にお互い男を相手に売春していて、いつも同じ発展場で客を待っているものだから、そのうち客を待つまで話すようになって、あいつは注意した方がいいだとか、あいつは金払いがいいだとか、そういう話をしているうちに、どっちにも客がつかなかったら二人でラブホテルに転がり込むという大変爛れた関係を築いてしまっていた。それが何回か続いたあとに、御手杵も同田貫もどちらが言ったのか覚えていないけれど、「なあ、こういうのやめてさ、まともな恋愛しないか?俺、あんたのこと結構好きだし」と、晴れて交際することになった。

交際をはじめてからわかったのは、実はふたりとも同じ大学に通っていて、実は家が案外近かったって、そういう、身体を売っている間には教えなかった個人情報だけだった。身体のことはもう知り尽くしていたし、付き合ったからって、ベッドの上での性格が、日常生活とあんまりに乖離しているということはなかったから、知ったのはほんとうに、それくらい。お互い性にだらしないだけあって、生活もだらしなかったし、授業態度もだらしなかった。けれど二人して「ちゃんと恋愛しよう」という話だったので、浮気については、御手杵も同田貫もしていなくて、春を売ることも、しなくなった。代わりに同田貫は居酒屋でバイトをはじめて、家が裕福だった御手杵は、お遊び程度の経験として、ボランティアなんて、履歴書に書けそうなことを始めてしまった。二人とも、柄じゃない。けれど、その柄じゃないことをやるのが、二人にとってはとても新鮮で、好きな相手とセックスすることがとても満たされるということを、知った。

「なあ、俺らって、どっちが告白したんだっけ」
「告白とかあったっけ?」
「んーわかんねぇけど、まぁいいか」

ふたりのうちでどちらかというと細かいことを気にする同田貫が投げた質問だったけれど、それは実際、ふたりにとってはどうでもよくって、別に、好きならどっちがどうとか関係ないと、本当にそう思っていた。

そうしているうちにふたりは社会人になったのだけれど、ふたりとも東京の企業に就職したので、同田貫は会社の寮がある南浦和に住み、御手杵は赤羽に住んだ。京浜東北線で一本というアパートの立地だったので、週末にはお互い上司の飲み会に付き合って、そのあとだいたい赤羽で飲みなおし、朝までセックスをして、土曜日には死んだようにベッドに寝ているか、一緒に寝ているうちに勝手にちんこが勃って、それをどうにかするかして、土曜の夜にやっと同田貫は御手杵の家を去り、御手杵は日曜日にはつまらないテレビを観たり、ちょっと買い物に行ったり、明日は月曜日か、と、憂鬱な気分になったりした。それは同田貫もおんなじで、ふたりでいる時間以外は、どうにもつまらなくて、やることがないものだから、適当な趣味を見繕った。だから社会人一年目の秋に、同田貫の趣味は自転車になって、御手杵の趣味はドライブになった。そうして、このままゆっくりとした時間が過ぎていって、ずっとふたりで週末にセックスを楽しんでいるものなんだろうなあという時になって、同田貫が大阪へ、一カ月出張することになった。

同田貫はあまり大手ではない広告代理店に就職していて、大阪でのコネクションを作りたい部長が、ベテランを二人と、新人の中でまぁまぁ成績のよかった同田貫に白羽の矢を立てたのだ。御手杵はそれを聞いて、「へえ、はじめての遠距離恋愛だ」と言った。同田貫も「そうだなぁ」としか言わなくて、まぁ離れてしまったとしてもそんなに問題はないのだろう、と、社会人二年目の春からはじまる、同田貫の長期出張について、別段の話し合いを設けなかった。

そうして、はじめの一週間目で、御手杵は「あれ、」と、思った。週末に何をしていいか、わからなかった。趣味であるドライブにでも出かければいいのだろうけれど、それは基本的に日曜日にやることで、性のにおいを払拭するための儀式のようなもので、つまるところ、趣味でもなんでもなかったということに、気が付いたのだ。同田貫もそうだったらしく、土曜日の夜に電話がかかってきて、「なあ、あんた、今日何してた?」と、聞かれた。御手杵は「なんもしてなかった。なんかしてた記憶がない」と答えた。それからなんだかどうでもいいような会話をして、それで電話は終わりだったのだけれど、御手杵は身体の芯みたいなところがむずむずするのを、我慢しなければならなかった。

そうしてまた一瞬間が経って、土曜日になった。その晩に、今度は御手杵の方から同田貫に電話をかけた。一応断りをいれておくべきことだと思ったのだ。

『なんだよ、なんか気にくわねぇ上司の尻でも蹴ったのか?』
「いや、そういうんじゃなくってさ、俺、一応同田貫に断っとかなきゃいけないかなーって思って」
『はあ?なんかすんのか?でもなんで俺に断る必要があんだよ』
「いや、俺、セフレ欲しいからさ。一応、恋人には断っておかないと、まずいだろ?で、俺、セフレ作ってもいい?」
『……はぁ……?』
「いや、だから、俺、セフレ作りたい」

電話口の向こうで、同田貫は大きくため息をついたようだった。それから少しの間があって、ひどく冷めた声で『別に、止めやしねぇけどよ、そんときゃ、俺はあんたの恋人やめるかんな』と言われた。御手杵は「それは嫌だなあ、じゃあ、我慢するか」と応えて、用件はそれだけだから、と、電話を切った。

そしてまた一週間が経って、御手杵はまたどうにもならなくなって、同田貫に、「なあ、俺セフレ作っていい?」と尋ねて、同田貫にまた同じセリフを吐かれ、またおんなじように、「じゃあやめとく」と言った。そのあとは雑談をして、恋人らしい会話もして、それでもどこか満たされないなにかを抱えたまんま、御手杵はまた一週間を過ごした。来週末には同田貫が帰ってくる、と、そう思うと、なんと表現したらいいかわからない、色々な感情と性欲が混ざった気持ちで、胸がそわそわした。

けれど、同田貫は帰ってこなかった。

思った以上にコネクションが広がりそうだったらしく、同田貫の出張は、また半月伸びてしまったのだ。それを聞いた御手杵は、さすがにしょんぼりとして、「そうか……」とだけ言った。それがあんまりにもかわいそうだったのだろう、同田貫は電話口で、『なあ、あんた、もうセフレ作っていいぞ』と言った。

「え、やだよ、そしたら同田貫、俺の恋人じゃなくなるんだろ」

それを聞いて、面食らったらしい同田貫が、ちょっと黙った。御手杵はなんで驚いて黙る必要があるんだろうと思いながら、「俺、ちゃんと待ってるから、だから、ちゃんと帰ってきてくれよな。それまでオナニーだけで我慢してっからさ」と、下世話だけれど、男同士ならありきたりなセリフを口にした。

『あんたがあと三十秒だけ男前だったら、俺もこんな、なんつーか、どうしようもない気分にはなんなかったのになあ』
「ああ、なんかこう、ムラムラしてる?」
『めっちゃしてる』
「じゃああれやろう、やったことなかったろ、テレフォンセックス。どうやんだ?あんたのケツに携帯ぶちこむのか?」
『ちげーよ、ばーか』

そう言って同田貫が笑うから、御手杵もつられて笑って、ああ、一週間って、一カ月って、こんなに長かったんだなあなんて、ありきたりなことを、ふたりして思った。


END


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