猫なしの笑い(1/5)
※オリトレ出ますので苦手な方は注意。
「おいひいれす」
美味しい?という彼の母親の問いに、彼女は究極に緩みきった顔で頷いた。
料理番組なら確実にお菓子が食べたくなる顔で、その子はもぐもぐとクッキーを咀嚼し続ける。
そう、と嬉しそうな母親は今にもぽわぽわと花でも飛ばしそうな雰囲気を醸し出した。
彼と言えば、女二人に囲まれて、苦虫を噛み潰したような顔でしかいられないという非常に不本意な状況に陥っていた。
相変わらず苦い顔で甘ったるい紅茶を啜る。
ひたすら、目の前のしあわせと書かれたアホ面に、バカだの何だの上書きしたいと思いながら。
欠陥ラヂオ様5th記念
『地図送っといたから』
いつものように感情の読めない高くも低くもない声が、ぶっきらぼうな言葉を電話越しに吐き捨てた。
聞き間違えかなあ、一生懸命耳に当てていた公衆電話を見つめると、ねえ聞いてんのと苛立った声が聞こえた。
…間違いなく、駒村くんの声だ。
恐る恐る再び耳を傾けると、まるで見てたみたいに鼻でせせら笑われた。
『別にさあ〜聞き間違えてくれてい〜よ〜w』
「えっ!?痛っ」
びっくりし過ぎてよろめいたら、後頭部をガラスにぶつけてしまった。
公衆電話の外で一部始終見ていたゾロアが呆れたように肩を竦めた。
ははっw、特有の人を小馬鹿にしたような笑い声が耳を擽る。
「びっくりした」
本当なんだ、興奮して思わず大きな声で聞き返すと、すぐに気持ち悪いと一蹴された。
「じゃあ明日、家に行くね」
『うるさいんだけど。親があんた呼べって煩いだけでさあ、別に来なくていーんだよね』
「お土産アーティさんのサインでいいかな?」
『来んな』
電話の向こうの鬱陶しそうな顔が、何でもいーんでないと適当にでも言ってくれた。嬉しいなあ。
一人でにこにこしてしまっていると、キモいと耳元で言われた。
「ちゃんと行けるかな」
『あんたが方向音痴じゃなければね』
でも最後にちゃんと、めんどいから地図無くさないようにしてよねと、ふてくされた声で釘を刺してくれた。
「郁、ボクは反対だゾ」
電話を切って外に出るとゾロアがむくれていた。言いつつ数枚テレホンカードをくれた。裏にゾロアの連絡先が書かれていた。
「マジキチはマジキチを呼ぶって言うだろう。きっと道のりはマジキチに違いない」
「聞いたことないけどなあ…」
苦笑いすると、ゾロアはふんと小さな鼻を鳴らした。いつも一緒に居てくれる彼は、ちょっとだけ心配性だ。今回お留守番だから、尚更。
「アイツは猫みたいに気紛れなヤツだゾ。いいか郁、猫科にろくなヤツはいないんだ。まず性悪でずる賢い!わるぎつねポケモンだゾ、アイツは!」
ぷんぷんと隣で説教を続ける度に、ゾロアの自慢の耳と尻尾がもふもふと揺れていた。
知らない街はワンダーランド
頑張って行くから、迷わない。
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(ようこそアリス)
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