踊るピエロ


※会話に出てくるサスケくんはれっくす宅のエモンガ♂です







「ぜったいぜっこーする」



そう頬を膨らませて店を訪れた飛丸に、葉月は溜め息で返した。



「またか」
「いーや!今度は絶対だ!ぜーったい、だ!」

勝手にクッキーを頬袋にいれて絶対と繰り返す飛丸。もう慣れたことだ。カウンターの端に置いてあるバケットの中身は全て、この困ったガキの為にある。

葉月は客相手とは違う、柔らかくも呆れた顔でカルピスソーダを取り出した。予想通り後ろから、今日はしゅわしゅわの炭酸だ!と無駄に本人なりに大人ぶった発言が聞こえたが、どうせしゃっくりが止まらなくなるのすら予想出来る。そのくらいには、お馴染みのことだ。


"オレせんよう"と殴り書きされたマグカップに入ったカルピスソーダを飲み干して、けぷ、と音が出ればもう次からはしゃっくりのオンパレードだ。

客の居ない店内で、葉月は飛丸の前のカウンターに肘をついて尋ねた。


「で?今日は何したんだ?またサスケに怒られたか?」
「ひっく、このアホ毛!何でいっつもおれがしたことに、っく、なるんだよっ」
「酔っぱらいか。何だ?またサスケの左側に座りたくなって怒られたか?仕方無いだろ、あんたは右利きで、向こうは左利きなんだからさ」
「サスケじゃねーって」

ふてくされた飛丸からの否定に、お、と少なからず葉月は驚いた。どうやら今回はいつもと違うらしい。


ならば誰だ、首を傾げるマスターに飛丸は苦々しげに言った。



「うぃっく、茶々だよ!ちゃちゃまる!」

「は?茶々丸が喧嘩?」


嘘だろ、二の句に出てきた感想がそれだ。

茶々丸と聞いて、淡々とした礼儀正しく丁寧な喋り方と、飛丸と似てはいるものののっぺりした無表情を思い出す。大体飛丸の後方からカメラを構え、どちらかと言うとサスケよりは飛丸を甘やかしている気がする。

そもそも性格は大人しく、多少毒舌ではあるがいつも傍観者の立場で誰かと喧嘩をするとは思えない。


ゆらゆらと憶測無く、葉月の一部だけ跳ねた髪が揺れた。

だってな、と眉間に皺を寄せたまま飛丸が口を開く。



「おれの秘密、あいつバラしやがったんだぜ」
「秘密?」
「……」
「いや、言いたくないなら言わなくていいけど」


むむ、と口をへの字に曲げて、少しだけ迷ってから、飛丸は葉月の耳元へ顔を寄せた。



「…言うなよ」
「ああ」

「……おれな、」
「ああ」

「…ひっく、」
「ああ」

こくり、ひそひそ話に緊張で息を呑む。
真剣な顔のまま飛丸は震える声で囁いた。



「ピエロが、怖いんだ」
「ああ?」

「前住んでた家の周り、ピエロがずっとつり橋渡ってんだよ!夜中トイレ行った時とか超怖いんだ!それからずっとピエロ嫌いなんだよ」
「…そうか」
「生温かい目してんじゃねーぞコラぁ!」


どうやら本気らしい、涙目になってきたところで葉月は話を変えた。


「で?それを茶々丸がサスケに話したのか?」
「そうだ。約束したのに」

語尾が段々小さくなっていき、しまいには俯いてクッキーを頬張った。


「男と男の約束なって言ったのに、あいつサスケに喋ったんだ。ひっく、ぜってーぜっこーしてやる」

「まだ絶交言い出せてない辺りが、あんたらしいな」
「うるせーな!絶対今日中に絶交宣言してやんだからな!」

「はいはい」
「生返事してないで止めて下さい。ここぞと言う時デレないなんてキミはツンデレの自覚あっての狼藉ですか」
「うだああ!!!?」


ズザアッ!!では無くヨロッ、と後ずさった葉月の目の前、飛丸の横の席からぬっと事件の犯人が顔を出したのだ。カメラはしっかりと構えられている。

驚きで直立したままのアホ毛で、葉月は飛丸を見やる。声も出なかったらしい、両手で口を塞いで固まっていた。が、どうやらお陰でしゃっくりは止まったみたいだ。



色素の薄い髪をパーカーで隠した茶々丸に、葉月はカメラ越しに目を合わせた。


「う、おま、いつから」

「キミが飛丸くん専用のナカに白濁の液体を注ぎ込んだ辺りからです」
「いかがわしい言い回しは止めろ!!」

それはどうもすみません、感情の込もって無い声と共に、ジュコーッ、大袈裟な音を立てて飛丸のコップからストローでカルピスソーダが飲み干された。


「茶々丸!おれはお前を許したわけじゃないんだかんな!」
「心外です」

ハッと思い出したように叫んだ飛丸を、茶々丸は相変わらずの無表情で見つめた。


「約束を破ったのはキミではありませんか、飛丸くん」
「お前が飛丸との約束を破ったんじゃないのか?」
「心外です」

もう一度淡々と繰り返して、茶々丸は言った。


「ボクが飛丸くんの秘密を守る代わりに、サスケくんに秘密をバラそうとしたら"言っちゃらめえ///"って言ってくれる約束だったじゃないですか」
「そんな意味不明なリアクション取れるわけないだろーが!!」


残念です、呟く茶々丸は微かに眉が下がっているような気もする。



どうやら飛丸は茶々丸の狙いを全く理解出来ていないらしい。それはいいのだ。教育に悪い。不必要な知識である。

それより無駄に知識がある方が厄介だ。この脳内が完全に腐りきった茶々丸に口で勝てた者は居ない。


未だすれ違った言い合いを続ける二人に挟まれ、どうこの場をおさめたものかと、結局第三者の葉月が頭を抱える羽目になるのだった。







踊るピエロ



まあ、これもいつものことですよね。





苦労性お母さん系男子
飛丸はフキヨセシティに住んでました^^
2013.4.7


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