なりすまし
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ンガー
明日はきっと、とっても良い日です。良い天気なのです。天気予報が言っていました。
まだ、今日ですけれど。
「…きれいです」
燃えるものも燃えないものも粗大ごみの日も関係無いくらい、ここには様々なゴミで溢れ返っている。
まだ全部を見れない内にまた新しいゴミが積もっていくのだ。カメラも此処で見付けました。掘り出し物を見付けるべく、ボクは日が落ちてから通っていた。
錆び付いた懐中電灯と月明かりを頼りにさ迷う。
こんな時間帯に来るのは、内緒の場所だからです。
「よいしょ」
汚れたビー玉を見付けて、肩に提げた大きな鞄へしまう。
これは帰って洗ったら、飛丸君にあげましょう。きっと喜んでくれます。
いつもふわふわと浮いて、楽しそうな花さんでもいいかもしれません。
白い手が土で汚れて黒くなっても、お構い無しに物を漁っていく。汚れるくらいがいいんです。真っ黒になってしまった方が、ボクにはいっそ楽な人生でしょう。
闇に同化するくらい、黒だと良いです。それは普通なので良いことです。
フードを被り直して息を吐いた。
明日は、早起きしないと。
飛丸君が朝からご機嫌で、能天気に鼻唄を歌いながらジャングルジムの頂点に君臨するはずだ。後で佐助君と雷華君がやって来る筈なんです。
はい、CP的にとってもメシがウマいですね。
ボクですか?ボクは茂みの後ろで、カメラを構えます。飛丸君の影に隠れて、息を潜めていられたら万事万々歳です。
彼はとても明るいから、ボクは誰の目にも入らない。
「!ありました…!」
車のバンパーによじ登ると、漸く資源ゴミの山を見付けた。急いで近付く。
「おお…!」
"飼い犬が騒がしくて、ベッドイン"
"飼い犬が天使過ぎて、ベッドイン"
「飼い犬シリーズです!!」
大変です。わんこ受けの最高峰と呼ばれる作品を発見してしまいました。今日はとっても良い日になりそうです。はい、これぞメシウマですね。
綺麗に装丁された本をそっと手に取って、繊細なタッチをガン見する。襲い受けが天使過ぎてツラいですね。マジ天使って叫びたくなります。さっき飼い犬シリーズって思わず叫んでしまいましたから、大丈夫ですかね。マジ天使!!
ポーカーフェイスのまま、無言で熱く迸る胸に区切りを付ける。そして大きく頷いた。
きっと、今日はとっても良い日です。
「…?」
ふと、何か聴こえた気がして耳をすませる。
ゴミが落ちる音でも無い、人の唸る声のようだ。ゴミ山を降りて行くとそれはどんどん近付いてく。
「んー…」
「!…だ、誰、ですか」
小さく呟いて身を潜める。フードを引っ張って深く被った。…此処は、穴場です。ボク以外に知る人なんて居ないはずなのに。人の気配がします。
「んー」
ガチャガチャと煩く物を漁りながら、声はずっと悩んでいる。と、何かを見付けたらしく音が止んだ。
「…うーん!!」
色々な角度から品定めしている様子が伝わってくる。その人は感動したまま、鼻息荒く叫んだ。
「蛇口!!!!」
ボクは全力でその場から逃げ出しました。ヤバイです、アイツ明らかにヤバイです。何かよく分からないけど、蛇口に興奮しているのだけは分かりました。それで十分ヤバイです。
転がるように公園まで逃げてツボツボの遊具に隠れた。屋根が石造りで、中は暗く、いつもひんやりしている。
静かに息を整えて、震えながら耳をすませた。…大丈夫、追って来てはいません。
「…、」
独りぼっちで膝を抱えて、小さくなった。
穴から射し込んだ日しか当たらないだろうに、隅っこにぽつんと芽を出した花を見つめる。
「…キミも不運ですね」
丁寧に根っこまで掘って、陽当たりが良いだろう場所を探す。
そろりと遊具から抜け出して、茂みの手前で土を掘った。
ボクはエモンガです。
そういう、種です。みんな見た目は違えど、どこか繋がっています。
けれどボクは、それらと違います。あぁ、珍しい稀少な存在価値はあるかもしれませんね。でもだから、ボクは独りぼっちです。
ボクはゴミと一緒です。サビみたいに汚い色は、みんなと違って気持ちが悪い。目立ちたくなんて無いのに、髪に光が当たるとキラキラします。
仲間外れになるから、違うのは悪い事なんです。
月明かりにうっすらと浮かぶ、土まみれだけど透けるような肌にゾッとした。幽霊みたいにぼんやり光る髪を隠そうと必死になって、諦めた。
フードから離して、右手で髪を掴む。
「…、えい、」
えい、と強く引っ張ると、ぷち、数本抜けました。えい、えい、
誰かの影に隠れても隠れきれなくて、後ろ指を指されます。ボクはきっと、可哀想で要らなくて悪い子なんです。変なお医者さんとか、頭の可笑しい人達だけが、ボクに触ろうとします。
嗜好うんぬんは置いといて頭だけは普通のつもりですから、そういうのに関わるのが余計人から外れる事だとは知っていました。
「悲しい事があったのか?」
いつものように、あっけらかんと能天気で、けれど静かな、声がした。
地面にしゃがんで頭をかきむしるボクの手を取って、飛丸君は困った顔をしていました。早寝遅起きの彼が、こんな夜にどうしてでしょう。
月明かりと街灯を受けて輝く、ボクなんかよりずぅっと綺麗な、黒曜石みたいな瞳を見つめた。
一緒じゃないと思うと心臓が痛くて痛くて、いつもなら平気で慣れっこなのに、今は何だか押し潰されそうです。
「ボクはいつも、哀しいですよ」
「……」
「今日、近所の子供に石をぶつけられました。お母さん方の井戸端会議で、みんなボクが可哀想だと言います。珍しい見た目だけど、ろくな暮らしも出来ないでしょうと。一緒に居てくれるキミが善人だと言われたらいいけれど、変な子だって言われるのは耐えられません。陰から石を投げました。キミだったらどうしましたか。どうしても、ボクはキミみたいにやれないのです」
今日どれだけ悲しくて辛いことがあっても、明日はきっと良い日になる。飛丸君が教えてくれました。
でも、飛丸君。明日っていつですか。
毎日毎日待っているのに、明日は来ないのです。いつだって今日でしかなくて、そして今日は悲しいのです。
「今日を良い日にしようとしました。BLを見付けて、良い日になりそうだったのに、ボクだけの場所に違う人がいました」
「茶々丸」
名前を呼ばれて、すがるように見つめる。飛丸君は、ニコッと気持ちよく笑った。
「明日は佐助や雷華と一緒に秘密基地作ろーな!」
「…秘密基地、ですか」
「そうだ。お前だけの場所じゃなくて、俺達とお前の場所だ」
「キミと」
「それじゃ嫌か?」
ぱちぱち、目を丸くする。飛丸君は悪戯っ子みたいに笑った。
…あぁ、キミみたいに笑えたら、ボクはもう少しマシになれるのでしょうか。
ボクは喜怒哀楽の感情も足りない、不完全な存在です。
「…いいえ、きっと、それは、きっと、素敵ですね」
明日が来てまた太陽登って、光と影の境界出来たなら、やっぱ、影に逃げ続けるだけの、人生なんでしょう。
そうだこうやって、キミの影にずぅっと隠れて、いつかは照らされてしまえば良いですね。
「明日はきっと、良い日になりそうです」
小さな花を手で包んで、ゆっくり瞼を閉じた。
「きっとじゃないぞ!絶対だ!」
飛丸君が優しく笑ってくれた気配がした。
あぁやっぱり、今日は良い日だったんですね。キミは正しい。
キミの影になりすまして、そうして照らされて、いずれはこのまま消えちゃえたら、それでいいなあ。
太陽のようなキミの一部に溶けるのです。
サイコーですね。いぇい
ボクは
なりすましエモンガーズ
少年Cの憂鬱より抜粋。
Bgm/「なりすましゲンガー」
2014.3.26
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