蜂蜜の二人(4/5)
飛丸とサスケって言うんだ。
いや、サスケと飛丸だ。
さっきまで仲良くボール遊びをしていた二人は、どちらかがボールを取り損ねたことで状況が一変したようだ。
てんてん、と転がって行ったボールを拾ってくれた女の子に、自己紹介をするところで揉めている。
言い合いをする飛丸君とサスケ君。いや、サスケ君と飛丸君。女の子は目を丸くして見た。彼等と一緒に遊んでいた雷華君はにこにこと、それはそれは楽しげに眺めているだけだ。
「あの子、見かけない子だね、ジジ君」
蜂蜜の瓶を抱え直して、マンホールを見つめているジジ君に声をかけた。
ジジ君はぱちくりと瞬きをして顔を上げた。
漸くロックオンが解けてくれたかな。別に急いで無いからのんびり行くつもりだけど。ディナータイムの方が葉月君は忙しくないから。
「…あの子」
あ、今度はあの子に興味津々だ。たぶん両サイドの三つ編みが気になるんだろう。
小さく可愛らしい三つ編みが、女の子が動くのに合わせて揺れた。
「仲良しなんだね」
ふんわりと笑った女の子に、二人がぐっと息詰まる。違う、って否定の言葉が出ないのが微笑ましかった。
彼女はうんうんと嬉しそうに納得すると、持っていた紙袋から小袋を取り出した。中に小さなクッキーが入ってる。見覚えのある紙袋だ。
拾ったボールとクッキーを二人に渡すと、スキップでもしそうな足取りで、軽やかにその場を去っていった。
サスケ君が慌てて声を張り上げる。
「あ、有り難う御座います!」
「いい姉ちゃんだ!アイツと全然違うな!」
クッキーを大事そうに抱えた飛丸君が、ニコニコ嬉しそうに笑っていた。
何だかんだで、仲良しだなあ。
「…んー…」
隣でジジ君の唸る声がした。
目を向けると、彼は公園の中の蛇口に視線を注いでいる。
これはまずい。
ジジ君のベスト・ザ・マイブーム
「じ、ジジ君?蛇口の観察は止めとこう?葉月君のお店に行かなきゃいけないからね」
「…んー…」
「葉月君のお店に行ったら、いっぱい面白いものあるよ?」
「…電話」
ふと呟いたジジ君に、色々と言葉を選びながら答える。
「…うん…あそこの電話は…珍しいよね…」
「ん」
行く、とあっさり進行方向を向いたジジ君がすたすた歩き始める。
あぁ…
ごめんね、葉月君…また…ジジ君がお店の電話であちこちかけちゃうかもしれない…。
「サスケー、おれメタモンの食いたい」
「こら飛丸!雷華にも聞かなくちゃダメだろう」
「ふふ、仲良しさんだねえ」
両側で言い合いを続ける二人に挟まれて、雷華君の幸せそうな声が聞こえた。
あの子も似たようなこと、言ってたなあ。
あ、飛丸君が言ってたアイツって…
…彼、のことなのかな。
「密、早く、行く」
「あ、ごめんねジジ君」
溺れそうな蜂蜜の中で見た
ああ確かに、正反対だなあ。
→
(甘い蕩ける笑顔を見た)
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