お花達はいつも気まま(3/5)







駒村くんは何が好きなんだろう。


ヒウンアイスは食べてるけど、好きなのかな。アイス、溶けそうだな。

手土産どうしよう。



うーんと頭を悩ませていると、焼き菓子のいい香りがした。顔を上げるとお洒落な看板が見える。

扉の周りには見事に育てられた花や植物があって、硝子越しに中に置かれたアンティークも見えた。


"本日の日替りランチ/ふわふわオムライス、具だくさん野菜のホワイトソースがけ"
"本日の気紛れ菓子/ユニランゼリー"

"お菓子のお持ち帰り承っております。手土産に"



「…おいしそう、」


ちょっとヨダレ出た。

表に出された黒板の字は几帳面で、いい人そうだなと何と無く思った。
こくりと唾液を飲み込んで、そうっと細かい装飾が施されたドアノブを回す。


チリン、と可愛い音がした。




「いらっしゃいませ」


真っ先に声をかけてくれたのは、私より少し年上の男の子だった。一人しか居ないし、店長さん、なのかな。

きっちりとした燕尾服に黒い短めの手袋をしている。ホールに出て来ていたところで、さっとこっちに歩み寄って来てくれた。


「ランチですか?」
「あの、お菓子の持ち帰りを」
「恐れ入ります。此方へどうぞ」

軽く右手のカウンターに促されて、男の子についていく。一番入り口に近いカウンターの端はショーケースになっていて、色とりどりのケーキやクッキーがあった。


「…わあ…」
「お好きなのをどうぞ」

緩やかに促されてショーケースの前に立つ。

表に書かれていた、ユニランを模したゼリーが真ん中にあった。ぷるぷるで透き通っていて、中のフルーツが見える。ユニランの目玉も器用に付けられていた。



「…可愛い」


隣にあるポケモン型のクッキーの山に思わず笑顔になった。これ、時々駒村くんが買って来てくれるやつかな。可愛いな。

興味津々で見つめていると、カウンターの中に戻った男の子が、嬉しそうに口元を緩めた。



「じゃあ、ユニランゼリーを6個下さい」
「畏まりました。720円になります」

チィン、レジは一昔前の物のようで、隣に置かれている電話も、耳に当てる部分と話す部分が別の洒落たものだった。

見とれつつ、マッギョのがま口財布から1000円札を取り出す。お釣りを渡しながらまた促された。


「お包みしますので空いてるお席でお待ち下さい」

お言葉に甘えてカウンター席に腰を下ろす。さっと冷えたお水を出してくれた。す、すごい、至れり尽くせりだ。
お冷やは仄かに檸檬の香りがした。



「嘘でしょ?」
「あら〜ん、アタシは嘘なんて吐かないわ♪」

後ろの席から軽やかで楽しげな笑い声が上がった。
グラスやティーカップが置かれている食器棚に、窓際で談笑する女子が三人映っていた。

左端で、訝しげなままの女の子がアイスコーヒーを啜る。
真ん中の背の高い人は女性らしい仕草で肘を付いた。

「茶々クンから聞いたんだもの。情報筋は確かよ。"あの子"が、来るんですって」
「"あの子"って、そんなにすごいのかな?」

右端の少女がショートケーキを頬張って首を傾げた。


「化け物ね、きっと」

向かいのアイスコーヒーの女の子が、ニヤリとひねくれた笑みを浮かべた。

「だってあの男とつるんでるくらいだもの」
「悪い人なの?」
「そうかもって話」
「じゃあいい人?」
「あんたすぐそう言うんだから」

「うふふっ」

真ん中の人がきゃっきゃと可愛らしい笑い声を上げて、フルーツタルトを口に含む。

ほんとに、ねえ、


「あの子って誰のことかしら?」



翡翠色の双眸と、硝子越しに目が合った気がした。





「お待たせしました」

「あ、はい」

三つ葉が描かれたコンパクトな紙袋を受け取る。中を覗くと、丁寧に包装されたゼリーが入った箱。

それから、透明で小さな小袋が入っていた。メタモンと、ヒノアラシと、チュリネの形のクッキー。


「…あ、」

慌てて見上げると店長さんは素知らぬ顔で、人差し指を立てて微かに笑みを浮かべていた。


「またお越し下さい」
「あ、ありがとうございます、」





素敵なとこ、来てしまった…!







とあるガールズのお花し




また来よう。




(噂のあの子)



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