devotion



「あー腹減ったァ」

トレーニングウェアを脱いだ荒北は、替えのTシャツに手を通しながら口を開いた。

「明日休みだし食堂早じまいかもな」

飯残ってっかなぁ、と言いながらちらりと福富の方を見やる。
疾うに着替えを終えていた福富は壁沿いに立って荒北を見ていた。

「…つかさぁ、福ちゃん何か言いてぇことでもあんの?」

ずーっと黙ってこっち見てっけど、と続けると、福富は困ったような顔をする。
言うか言うまいか決めかねているらしい福富に、荒北はつかつかと寄っていった。
暫く言い渋っていた福富だったが、沈黙に耐えかねたのか漸く口を開いた。

「お前は…俺なんかを牽いて満足がいくのか」

福富の声が、2人きりの部室に響いた。
沈黙の後、先に声を出したのは荒北だ。

「…っ、ざけんな!」

もとより語彙が少なく口下手な福富だ。
その上結論を先に述べる質でもあるものだから、その真意を掴むのは難しい。
だが、それを汲み取ってしまうのが荒北だった。

壁に福富を押さえつけ、荒北は続ける。

「俺、なんか?んだよソレ、ふざけんな」
力の込められた腕は震えている。
荒北が福富にこうして直接力をふるうのは、入部してすぐ以来だった。

「ふざけているつもりはない、だが」
「ふざけてんだろ、じゃなきゃ何だよオレのこと何だと思ってんだ…!」

歪められた口元は、寄せられた眉は、強気なはずの言葉とは裏腹に泣き出しそうで、福富は焦る。

「お前は…」
「っ、オレは……福ちゃん、アンタを勝たす為にいんだよ」

とん、と肩に重さが乗った。
乗せられた頭を見つめながら、福富は口を噤む。
己の弱さを目の当たりにした福富にとって、自分を勝たせるという荒北の言葉は重たいものだった。
それでも、顔を伏せたまま荒北の口が紡ぐ言葉に耳を傾けずにはいられない。

「オレが福ちゃんをゴールまで運んでやっから、…オレが守る、だから」

福富がオレは強い、オレはエースだと自信をもって言う。
それは荒北にとっての光だ。
荒北を引っぱり上げたのは、紛れもない絶対的な強さだったから。

「…王様でいてよ、福ちゃん」

誰が何と言おうと、オレのエースはオマエだけなんだよ、なァ福ちゃん。
そう言って福富を見つめた目はわずかに濡れて、それでも真っ直ぐに福富だけを見つめている。

「荒北、」

オマエがその道を、その身で切り開いてくれるのなら。

「オレは、もう…負けない」
「…あァ」
「オレは強い」
「っ、オレがいっちゃん知ってんだよ!」

荒北は、安心したように福富の肩をぱしんと打った。

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福荒3倍祭その2。
時間軸は福ちゃんと荒北さんが組んで走る少し前、2年のIHの後らへん。




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