左手と右耳



「痛くないのか」
左耳に触れた緑間の指が冷たい。
テーピングの巻かれていないその手はもう見慣れてしまったけれど、やっぱり緑間の左手は特別だな、なんて。
そんな的外れなことを考えていると、緑間の手がゆっくり離れた。
「もー痛くねぇよ。開けた時はちっと痛かったけど」
「痛いのが嫌いなくせによくやるのだよ」
「ちょっと思うところあってなー。けど、真ちゃんもっと怒っかと思ったわ。親からもらった体に穴をーつってさ」
「耳に穴くらい今時みんな開けているのだよ。それに、その台詞をオレが言うのは筋違いだろう」
「ふーん」
「だが、少し惜しくはあるな」
お前の耳朶を触るのは少し、好きだった。
そう言いながら緑間が、スタッドのついたオレの耳を見つめるから。
少し伏せられた目が、本当に残念そうだったから。
だから少しだけ、茶化したくなってしまったのだ。
「じゃあ右の耳朶は、真ちゃん用に取っとくわ」
向かい合ったとき、緑間の左手が伸ばしやすい、右側。
照れて目を逸らすんだと思ったのに。
緑間の口元が、緩んで。
「…そうか」
照れてしまったのはこっちの方だ。
緑間は少しだけ、器用になった。素直に、答えてくれるようになった。
でも、そうやって、緑間がオレに甘い顔を見せるから。
「それで、どんなピアスをつける気なのだよ」
「まだ考え中〜」
ほんの少し、照れてしまったのを誤魔化すような答え。
オレのほうが昔より、ずっと照れてばっかりだ。
「そうか…なら、お前は買わなくていい」
「は?」
「そうだな、週末にでもオレが見繕ってきてやるのだよ」
「真ちゃんセンスないからやだなー」
「人のことが言えた義理か」
笑いながら言ったけれど、本当は。
本当は今、すごくオレは楽しいし、嬉しいし、…幸せなんだ。
「じゃあよろしく?」
「せいぜい楽しみにしているといいのだよ」
緑色のピアスに独占欲強すぎんだろーと爆笑したオレが、そのピアスを付け始めるのは暫く後の話だ。

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プライベッター再録。
フォロワーさんのお誕生日に書かせていただいたものです。

13.10.01→14.02.19 こよし



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