それは海のような



「もう、辛いんスよ笠松先輩…」
なんでこうなった、と笠松は自分に跨っている黄瀬を見上げる。
金を帯びた目からが濡れているのは現在進行形でボロボロと涙を落としているからだ。
笠松が黄瀬と先輩後輩以上の関係になって幾らか経った。
一緒に下校をしてみたり、マジバでデートじみた寄り道をしてみたり、キスをしてみたりもした。
肌が触れるような距離で、「好き」なのだと笑う黄瀬を笠松は受け入れた。
だからこそ、今のこの状況は。
「っ、黄瀬…!!」
「先輩、はオレのことホントに好き?」
半ば無理矢理ベッドに押し倒され、跨られて、もがいた頭の横でシーツが音を立てる。
黄瀬の零した涙が笠松のシャツの色を濃くしていく。
「…何言ってんだお前」
「オレばっか、先輩のこと好きみたいじゃないスか」
ひぐ、としゃくり上げた拍子にまた一つ雫が落ちた。
笠松の眉根が密かに寄る。
黄瀬は、自分ばかりが好きだと言った。
確かに最初は、そうだったかもしれないと笠松は思う。
自分にとっての黄瀬は後輩で、エースで。…それが絶対だったのだ、「最初は」。
恋人である以前に大前提があった。
でも、今はどうだろう。
黄瀬が自分を好きだと笑う、黄瀬が自分を思って泣く。
「黄瀬」
ずっと受け身だった。
愛されることに、甘えていたのかもしれない。
笠松は自分を見下ろす黄瀬に手を伸ばす。
「…黄瀬」
力を入れた背中が突っ張る。
触れるようなキスがしょっぱいのは、泣き濡れた黄瀬のせいだろう。
唇が離れるのと同時に笠松がボスンとベッドに沈めば、黄瀬が目を丸くしているのが見えた。
「何つー顔してんだよバカ」
じっと見つめられて急に自分からした気恥ずかしさが込み上げてきて、笠松は顔を逸らす。
好きじゃなかったら、こんなキスなんて絶対にしない。
好きじゃなかったら、こんなふうに一緒にはいない。
好きじゃない、わけがない。
それを言えないのが笠松の性格で、それが自分自身でもどかしくもあった。
けれど。
「笠松先輩、オレ…先輩が好きッス」
「知ってるよバカ」
「先輩が大好きッス」
「…じゃあ、そのままでいろよ」
「笠松先輩は、…オレのこと好きでいてくれますか?」
「当たり前だろ」
抱きついてきた黄瀬の背中に手を回して、ぽんぽんと数回叩く。
黄瀬は笠松が好きで、笠松は黄瀬が好き。
だから、何度でも、…不恰好にも口付ける。

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プライベッター再録。
【黄笠さんにオススメのキス題。シチュ:ベッドの上、表情:「泣きじゃくった顔」、ポイント:「強引に」、「自分からしようと頑張っている姿」です。 #kissodai http://shindanmaker.com/19329】
笠黄に限りなく近い黄笠。黄笠の日おめでとう。

13.07.04→14.02.19 こよし



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