言わぬばかりでナンセンス



*嘔吐表現注意



こりゃ癖ンなってんな…と不動は鬼道の背中を見ながら思った。
「うえええっ…はあっ、う゛…」
えずく度に強張る背中に手をやると、ドクドクと激しく打つ鼓動が伝わってきた。
こうして鬼道の背中をさすってやるのも珍しくなくなりつつある。

中学を卒業して帝国学園の高等部に進学した不動は、鬼道とルームシェアをしていた。
社会勉強の一環として1人暮らしを始めた鬼道が、アルバイトを理由に学生寮から出たがっていた不動を誘ったのだ。
不動としてもその誘いは悪くない提案で、二つ返事で乗ったわけなのだが。

初めて鬼道が嘔吐した時には何か悪いもん食った?とか風邪でも引いた?とか色々尋ねてみたのだが、本人曰く吐いてしまえば何ともなくなるらしい。
身体の不調でないなら、精神的な不調が原因だと相場が決まっている。
FFIの時や、その後の雷門に通っている間がどうだったかなんて知らないけれど言い方から察するに初めてじゃないんだろう。
実際こうして何度も吐く姿を見ていると、どっか無理してんだろうなぁ、なんて思ったりもするのだ。
鬼道はどこか己の心に嘘をついて、無理する所があると不動は思っていた。
付き合いが長いというには短い時間だけれど、不動のその認識はあながち間違いではない。
鬼道有人という男は、器用なようでいて“感情”という点においては非常に不器用なのだ。

「もう平気だ…」
すまない、と続いた言葉は水を流す音と共に消えた。
フラリと立ち上がって出て行こうとする鬼道の腕を、不動は掴んで引き止めた。
「…不動?」
「鬼道クンさぁ…今度は何抱え込んでんだよ?」
ぴくりと形のいい眉が寄せられた。
「抱え込む…?」
「お前がゲロ吐く時は大概なんか抱え込んでんだよ。家ン事とか、妹とか、部活とか」

あと、影山とか俺ンこととかァ、と続くはずだった言葉は飲み込んだ。
既に鬼道は黙って俯いていたから。

きっと鬼道の頭の中はいろんなことがグルグルしてるんだろうな、と不動は黙りこくっている鬼道を見ながら思った。
不動にはFFIの時…正確にはイタリア戦の後から気になっていることがあったのだ。
鬼道の感情のコントロールが変になったままなこと。
きっかけが影山の死だろうということは、何となく至った結論だ。
笑ってっけど笑えてねぇ、泣いてっけど泣けてねぇ。そんな感じだ。
そんなんじゃいつか潰れると、そう思っていたのだけれど。

「っ、ふど…」
あーこれ、吐くなぁ…と真っ白な鬼道の顔を見て不動は掴んでいた腕を離す。
本当、不器用にも程があんだろう。
「おええええっぐ、う…っ」
肩で息をしながら嘔吐を繰り返す鬼道の背中を不動はまたトントンと叩く。
「もーさァ、…無理やり我慢すんのやめれば?」
俺を頼れなんて言ってやんねーけど。
「ゲロってギリギリで感情セーブして、そんでお前楽んなれてんのか?」
「っ…かた、ないだろう…」
返ってこないと思っていた返答が返ってきて不動の手が動きを止めた。
「…どうすればいいか分からん…」
吐きたくて吐いてるわけじゃない。
でも何をどうすれば楽になれるのか分からないんだ。
背を向けたままとつとつと紡がれた言葉に不動はあーもう、と額を押さえた。
「言えばいいだろぉが俺に!!」
言葉にすりゃ何か変わることだってあんだろ、と。
そこまで言って不動はふいと顔をそらした。
無論、鬼道はこちらに背を向けているのだから意味などなかったのだけれど。

「…そうか」
「っだよ、落ち着いたなら水飲め!寝ろ!」
「ありがとう」

声を荒らげる不動を振り返って鬼道はひと言礼を述べた。
それに悪態をついて返すのは至極当たり前で、いつもどおりの不動だった。


---

親友以上恋人未満くらいな…不鬼不?
とりあえず何か表に出ない感情がグルグルグルグルして結局リバースな鬼道さんを書きたかった。
男前な明王を書きたかったんだが…力不足。

12.03.18



back



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -