2




「緑間君のことなんだけど」
彼女はそう言ってオレを見上げた。
くりくりとした大きな目の、小柄で可愛らしい雰囲気の先輩だ。
真ちゃんと同じ委員会だというその先輩は、曰く「緑間君のことが好き」で「口利きをしてもらえないか」ということらしい。
すぐに、緑間はオレの恋人ですから、と言ってやりたかった。
でも、オレの口は全く違う言葉を吐く。

「先輩、緑間の…どの辺がいーんですか?」
へらっと笑いながらオレがそう言えば、先輩は顔を赤らめる。
言う必要などないと断ればいいものを、律儀に答えてくれた先輩は悪い人じゃないんだろう。

「緑間君、すごく真面目で努力家だし」
「冷たく見えて案外優しいところ、あるから」
「そういうところが、その…好き」
小さく震えながら握りしめられた手を見下ろしながら、きっとこういうのを男は可愛いと思うんだろうなと感じた。
でもオレは、そんなことよりも。

(知ってる)
(知ってる)
(オレの方がもっと、…もっとあいつを…!!)

ぐっと喉の奥から飛び出しそうな言葉を飲み下す。
言いたくても言えない、歯噛みしたくなるような悔しさと同時に、頭の片隅がぽつりとこぼす。
オレじゃなくても、ちゃんと真ちゃんを見てくれる人は…いるんだと。

「先輩、やっぱり…それ自分で言ってやってください」
あいつ、人づてっていうか…そういうの嫌いなんで、直接言った方がいいスよ。
嘘じゃない。実際真ちゃんは、自分で人事を尽くさない相手を好まないだろう。
だけど、本当にそれだけかと言えば、それも違う。オレが、言いたくない。言えないから。
「やっぱり、そうかな…ありがとう高尾君」
そう言って頭を下げ、駆けていった後ろ姿に、オレは唇を噛む。

悔しい。
何故だろう。緑間の恋人はオレなのに、告白してもいない彼女に対して…オレはとんでもなく悔しいと思った。


「真ちゃん、今日はオレが全部するから」
オレがそういったのは、意地だった。
緑間を、真ちゃんを一番知ってるのはオレだって。
オレは女じゃない、けど、…オレが、真ちゃんを気持ちよくさせられるんだって、そう自分で思いたかったからだ。
呻き声とも喘ぎ声とも取れないような声を漏らしながら、必死に孔を解して、何とか挿入までこぎつける。
そこまできて漸く見られた真ちゃんの顔には、情欲も確かに浮かんでいたけれど…困惑、というのだろうか。そんな表情も顔を出していて、オレは一気に不安になった。
オレの、勘違いじゃ、ないよな。オレが、真ちゃんを、気持ちよくしてあげられるんだって、思ってるのは。
「しんちゃ、っ…ん…オレ、きもち…?」
上がりきった呼吸と、耐えられない色を孕んだ声の間に、縋るように…尋ねたこと。
「…っ」
返答は、なかった。ただ一瞬、真ちゃんの表情が止まった、だけだった。
「ん、っしん……ぁ、あ、あ!」
身体は勝手に跳ね上がって嬌声を上げるのに、…泣きだしそうだった。






back



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -