種蒔



「邪魔をするぞ精市」
幸村が手元の花壇から視線を移すと、見慣れた顔がそこにあった。
「蓮二」
「始業前に随分熱心だな」
鞄を提げたままの姿を見るに、登校してそのままここを訪れたらしい。
幸村は軍手を外しながら立ち上がる。
「蓮二こそ早いじゃないか」
「少しお前に用があってな、ここにいるだろうと見当がついていたから」
鞄を探って小さなギフト袋を取り出した柳に、幸村は首を傾げる。
「用って俺に?」
「お前にだ。プレゼントとは別だから先に渡しておくべきかと思ってな」
誕生日おめでとう、と差し出されたそれに、幸村はとりあえずありがとうと返す。
「何これ」
「開ければ分かる、見てみてくれ」
そう言う柳に、幸村は袋をあけて中身を取り出した。
「え、何の種………っはははは!」
種の入った袋の印字を見るなり、幸村は笑い声を上げた。
柳はといえば、珍しい物を見たような目で笑い続ける幸村を見ていたわけだが。


「いやー笑ったなぁ…」
しばらく笑っていた幸村は袋の“ビスカリア”の印字を改めてみる。
「あれから1年経ったんだな」
「ああ。丁度1年だ」
幸村の言う「あれ」は、去年の幸村の誕生日のことだ。
彼が病に倒れて入院中だった上、精神的にかなり参っていた。ほとんど面会謝絶といえる状態だったのだが、柳はその日も彼の元を訪れていたのだ。
「まったく…顔に似合わずロマンチストだよ蓮二は、今もあの時も」
「お前が元気なら何よりだと思うが?」
柳がそう答えれば、幸村は口元を緩めたまま続ける。
「実際蓮二が言ったことに元気付けられたのも事実だ。礼を言いそびれてた、ありがとう」
「何度も言わせてくれるな。精市が今ここで笑う、それで十分だ」
「…ホンット、俺を贔屓しすぎじゃないか?」
「3年間も贔屓されておいて今更だろう」
幸村はそれもそうか、と返しながら手の中の袋をもてあそぶ。
「ああ、それと」
柳が荷物を手に教室へ戻ろうとして立ち止まった時。
鳴り響いたバイブに幸村はポケットから携帯電話を取り出した。
「弦一郎からの確率97%だ」
「正解。今日の放課後、3階多目的教室集合」
「……ということだ。忘れて帰るんじゃないぞ」
「忘れないよ、俺を何だと思ってるんだよ」
そう言って少しむくれて見せると、幸村も鞄を手に教室へ向かって歩き出した。


“ビスカリア”、花言葉は望みを達成する情熱。
見た目に似合わず、雑草のように逞しく成長し花開く。
幸村精市という男、そのもののようじゃないか。


そう言った柳に、病に倒れて以来初めて幸村は笑ったのだった。



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ぎりぎり間に合いました、助かった。
実は20分ほど前に書きあがってたんですが、ブラウザバックのせいで全てなし崩しになるという…事態が起きまして。まあそれはいいです。
柳幸柳というか、柳+幸村というか。どちらかと言うとプラス推しです。
資料収集の結果、ピッタリな花を見つけたのになんとなく消化不良ごめん。
何はともあれ、誕生日おめでとうございました!

12.03.05



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