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※嘔吐表現注意




結局、緑間とはまだ話せていない。
高尾はシュート練習に打ち込む緑間の背中を見ながらため息を吐いた。

「どーした高尾、サボってっと轢くぞー」
「すんません!」

つーか宮地さん、ちょっと付き合ってほしーんスけど!
そう言って宮地を追いかけていった高尾を、緑間が見ていたことには気づかなかった。



「高尾」
「何、真ちゃんお疲れー」

練習後、緑間が声を掛けると高尾はいつものように応えた。
その笑みに不自然さは無い。

「今日のノルマ終わったんだ?」
「完璧なのだよ」
「はは、さすが真ちゃん」

笑ってそう言う高尾はいつもどおりだ。
緑間は、高尾の頭に伸ばそうと一瞬動かしかけた手を、また止めた。
もしまた怖がらせてしまったらと、恐れたからだ。

高尾はその一瞬を見逃さなかった。


「真ちゃん」
「…何なのだよ?」
「オレに触るの、嫌んなった…?」

ぴくりと緑間の眉が動く。

「オレ、真ちゃんに嫌な思いさせちまったから…さ」
「そういうことではないのだよ」

怖がっても仕方の無いことだ、と続いた言葉に高尾は首を横に振った。
ドキドキと打つ胸元を握り締めて高尾は言う。

「違くて!!…真ちゃんが怖いんじゃ、ない」

ぎゅっと緑間のジャージの袖を掴んで、高尾は必死に口を動かす。

「真ちゃんが怖いわけじゃないから…ッ」

嫌いにならないで、と。

そう高尾が言いかけたところで緑間はスッと高尾の唇に口付けた。
そんなことを、言って欲しくなかったのだ。
心配しなくとも、嫌いになどなるはずがないと。
唇を離して、そう言ってやろうとした緑間は愕然とした。

青い顔をして高尾がカタカタと震えていたのだ。

「た、高尾…?」
「ご、め…真ちゃ……っ」

口元を手で押さえてダッと体育館を出て行った高尾に、緑間はその場で呆然と立ち尽くした。





もつれる足を必死で動かして、高尾は外の手洗い場に向かった。
喉をこじ開けようとするそれを押さえつけ、歪む視界の中で走った。

「ぁ?高尾どうし…」

必死で辿り着いたそこに宮地がいることに気づいても、もう持たなかった。

ビチャビチャと音を立てて液体を吐き出した高尾に、宮地は驚きの声を上げる。「ぇ、うっ…げぇッげほっ」
「おいおい大丈夫かよ」

台に手を突いてげぇげぇと嘔吐する高尾は肩を大きく上下させて喘ぐ。
思わず宮地は高尾の背を摩ったが、逆にえずいてしまっているように感じた。

「…高尾!」

ようやく落ち着いてきた高尾に声を掛けると、涙の膜が張った目で宮地を見上げた。

「…、みやじさん…」
「どーしたんだよお前急に」
「や…何でも、ないス」

口を濯いで手の甲で口元を拭う高尾は、蛇口をひねって吐いた物を洗い流す。

「何でもってこたねーだろ、嘘吐くな」
「嘘じゃねーですって…見苦しいとこ見せてスンマセン」
「てめ……さっさと帰って休めよ」
「っス」

ふらふらと戻っていく高尾を心配げに見ながら、宮地は後頭部を掻いた。

「…ったく何考えてんだか…」




体育館に戻る途中、高尾は力が抜けて蹲った。
吐くのは思いのほか体力を使う。
もちろん、吐いたせいだけではないのだが。

ぼんやりする頭によぎるのは、さっきの緑間だ。

自分から嫌いにならないで欲しいと言っておきながら、緑間のキスに拒絶反応を起こして、逃げた。

最悪だ。
嫌われて当然の行為だ。

…大好きなのに。
好きで好きで堪らなくて、傷ついて遠回りして……やっと今があるのに。

緑間の全部が欲しくて、受け入れたくて。それなのに。


「…怖い……ッ」


小さく零れた本音が、どうしようもなく胸を締め付けた。




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