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練習のない休日に付き合っている相手と過ごすというのは自然なことである。
高尾はくるくるとシャーペンを回す。
視線の先のノートには数式が並んでいるが、それもほぼ完成形。
一緒に勉強をするという名目も役目を終えようとしているわけである。


高尾が緑間を家に招いたのに下心が無かったといえば完全に嘘だ。
高尾とて好きな相手といれば欲の一つも抱く。
それは緑間も同じことだろう。
相棒から恋人へ、変わらないようで大きく関係を変えたのは数ヶ月前のことだ。
お互いがお互いを欲しているのは分かっているし、単にタイミングを計りかねてのことだというのも承知の上だ。


だが…やっぱり一歩踏み出したいのだ。
そんな状況で、なんとも都合のいいことに今日は高尾の家族は皆出払っている。
明日は休日で、部活も休みだ。
ここまで条件が整った日などそうそう無いと、高尾は腹を括るつもりで緑間を自宅に呼んだのだ。


「真ちゃんおかえりー、湯加減どーだった?」
「丁度良かったのだよ」
「あそ?結構長湯だよな真ちゃんて」


待ってる間に課題終わったし逆に良いんだけど、と。風呂から戻ってきた緑間に、高尾はどきりとしながらも平常どおりの態度で笑った。
テキストを閉じた高尾がぐっと伸びをする。
緑間は立ち尽くしたまま高尾を見つめている。


「………」
「あ、えっと…真ちゃん?」


沈黙に早まっていく鼓動。
なんと切り出せばいいのか決めあぐねる高尾はごくりと唾を飲み下した。


「真ちゃ……んっ」
「高尾」


ひとつ。
高尾の唇に口付けると、緑間は高尾の名前を呼んだ。
高尾はこくりと小さく首を縦に振る。それだけで十分だった。




差し込まれた舌先が絡みついて息が上がる。
小さく声を漏らしながら幾度も息を継いで唇を重ねる。
腰掛けていたベッドがきし、と音を立て、緑間の手が高尾の身体を押し倒す。


(あ、れ……)


それは突然だった。
高尾は上がる息を抑えられないまま、困惑に目を開く。


(怖い……ッ?!)


圧迫感と肩を押さえられる力に今までとは違う意味で鼓動が早まっていく。

でも、目の前にいるのは緑間だ。
あんなに欲した緑間だというのに。
怖い、なんて。

「待、って…なんか…おかしい…ッ!」


性的な興奮からの言葉だと取った緑間は、ゆっくりではあるがその手を止めない。
さっきまでの情欲と興奮は明らかな恐怖感となって高尾に襲いかかった。


「ぅ、あっ…ひっ…はふっ」
「…高尾?」

がちがちに硬直した体で、高尾は戦慄く唇から荒い呼吸を繰り返す。
緑間は恐怖に見開いた目に気づくと、その頬に手を伸ばした。


「ひっ……!」


引き攣った声を出して抵抗した高尾は、すぐさま緑間から距離をとった。
はっ、はっ…と数度息を吐き出すと気づいたように緑間の方を見る。


「あ、ぁ……」


違う、違うんだ。
緑間が怖いんじゃない。
したくないんじゃない。


そう言いたいのに、高尾の口は全く言うことを聞こうとしなくて、ただ開いては閉じるばかりだ。


ベッドの端で揺れた瞳で自分を見る高尾に、緑間は後悔でいっぱいだった。
緑間とて怖がらせるつもりはなかった。
が、現に目の前で高尾は恐怖に震えているのだから。


「…少し、急いたようだな」


すまなかった、と緑間の口から謝罪の言葉が飛び出す。


違う。違う、違うよ真ちゃん。
オレはそんなことを言わせたいわけじゃない。
そんなこと、言いたいんじゃない。

高尾は、役立たずな己の口を呪って俯く。


「今日はお暇するのだよ」

すっと高尾の頭を撫でようと伸ばした手は、高尾の一瞬の揺らぎに止まった。

「おやすみ」


パタンと音を立てて閉まった部屋の扉を見つめて、高尾は小さく呟いた。



「…ちくしょう………」



縮こめた身体に、ギリギリと爪が痛みを走らせた。---

見切り発車でどうやらR-18も入りそうな予感。
ゆっくり更新行きます。

12.09.02



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