白い海にすがる



1年の終わり頃 福(→)(←)荒

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福富は毛布にくるまって眠っている部屋の住人を前にどうしたものかと考えていた。
靖友を看てやってくれと彼と同室である新開が東堂まで連れて頼みにきたのは放課後の事だった。
今日は部活自体は休養日であるし、福富としても風邪を引いた荒北を見舞うのに異存はなかった。
しかし、いざ前にするとやはり違うものである。
相手はプライドが高く弱味を見せない荒北だ。
その荒北が元より薄い体を丸めて額に冷却シートを貼り付けた姿で臥せっているというのは、普段との差に当惑してしまう。
福富は何をしてやればよいのか完全にわからなくなっていた。
なにぶん相手は眠っているし、これといってしてやれる事がないように思える。
しかしながら何もせずに帰るというのも気が引けて、福富はとりあえず荒北の額に手を当ててみた。
冷却シートの感触の奥から、じんわり熱の塊が主張してきて福富は眉を顰めた。
これは大丈夫なんだろうか。
少しでも熱を下げてやるべきなんじゃないか。
福富はほとんど乾いてしまっている冷却シートをはがして、新しいそれを貼ってやる。
幾分楽になってくれれば、と思いながら荒北のベッドの横に腰をおろす。
看病、というのには自分では力不足な気がして否めないのだが、それでも起きるまでは居てやりたいと思ったのだ。
福富はほとんど頭には入ってこないだろうとは思いつつも、パラパラと課題の出された教科書をめくっていた。どのくらい経ったか、不意に荒北が苦しげに寝返りを打った。
「荒北?」
福富は教科書を閉じて、起きたのかと荒北を覗き込んだが目は覚めていないようだ。
先程より荒く苦しげに吐き出される吐息に魘されているらしいと気づいた福富は、肩のあたりを数度叩いて覚醒を促した。
「荒北、起きろ荒北」
「っ…は、ぁ…ふくちゃ…」
うっすら目を開けた荒北にほっとしたのも束の間、荒北はほとんど力の入らない手で福富の胸ぐらを掴む。
「荒き…」
「い、くなよォ…福ちゃん、オレっ…追いつく、から…さァ」
置いてくんじゃねぇよ、と荒荒しい呼吸を繰り返しながら必死にすがる荒北の目はゆらゆらと揺れている。
熱に浮かされるとはこの事か、と福富は思う。
同時にこれが荒北の本音なのかとも感じていた。
「大丈夫だ、お前は追い付いてくるからな」
ちゃんと届く、と続いた福富の言葉に荒北の腕はずるりと下がる。
「…荒北?……寝たのか」
大分落ち着いたような寝息に、福富は安堵の息を吐いた。
思いがけず荒北の別の顔を見てしまったようで、内心福富は動揺していたが、それでいてどこか優越感を抱いたことを福富はまだ気づいていなかった。




「っでいんだよ福ちゃん…っ!?」
夕飯時になって目を覚ました荒北は噎せながら叫んだ。
「随分前からいたが…」
「福ちゃん部屋に入れんなっつったのに…」
あのヤロー、と呟く荒北に、どうやら大分良くなったらしいと福富はあまり変わらぬ表情ながら微笑んだ。



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風邪引き北さん、書いてみた。
side荒北さんもやりたい。魘された悪夢の中身とかを…。
風邪ネタ好きーなんで、またいつやらかすかっていう。

12.03.07



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