照りつける



それを見つけたのは偶然だった。

自主トレを終え、流しに頭を突っ込むようにして水を被った。
競うような蝉の大合唱とじわじわと肌を焼く夏の日差しに、思わず目を細めた。
タオルで適当に拭った頭からポタポタと水滴とも汗とも取れない雫を落としながら、福富は愛車のGIANTをひいて歩く。
こうも暑いと熱中症になりかねない。
いつもなら表を通るクラブハウスの裏手を通ったのは、少しでも涼しいルートを通りたいという本能が故だった。建物の裏手というのは、比較的日陰になりやすいのだ。
「荒北…?」

福富の視線の先に、建物に背を凭せ掛けて座り込んだ影があった。
顔は立てた膝に隠れていて見えないが、やはりその姿は荒北のものに間違いない。
しかし、何でまたこんなところに。
まさか熱中症で動けなくなっているのでは、と福富は自転車を壁に立て掛けて荒北に駆け寄った。
こめかみから先程とは異質の汗が流れ落ちる。

「荒北!」
「うわ?!っだよ、おめーかよ鉄仮面」

肩を掴めばすぐさま上げられた顔には最近切ったばかりの黒髪が頬に張り付いている。

「大丈夫か」
「あァ?何がだよ」
「調子が悪いんじゃないのか」
「…はァ?」

何いってんだコイツ、と言わんばかりの反応に福富は己の勘違いに頬をかく。

「いや、すまない。思い違いだったようだ」
「あっそ、オレもー行くかんな」
「水分はちゃんと摂れ、熱中症になる」

立ち上がった荒北にボトルを差し出せば、なめんな!と声をあげる。
そのくせ、きっちりボトルは受けとるのだから、わからない。

「オレだって元々運動部だったんだかんな」
「そうだったな」

なるほど、そっちかと福富は自分の中で解決した。
掴めないわりに、荒北は自分を信用はしてくれているらしい。
それに。

「まだおめーに言われた分、残ってっからコイツはもらっとくけどヨ」

荒北は、本気だ。
3倍と言った言葉どおり、荒北は物凄い勢いで先行く部員たちを猛追している。
ぞくりと背中を走った高揚に福富は密かに頬が緩みそうになるのを感じながら、歩いていく荒北の背中を見つめていた。


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福荒3倍祭その1です。
季節感…!真冬に真夏の話を書く暴挙。
まだまだ距離がつかめない福荒ちゃん。



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