浮上する



目が覚めたら白い部屋。
薬品の臭いが鼻を掠めて、保健室にいるのが分かった。
今にも泣き出しそうな顔をした恋人が俺を見つめていた。

「ばか」

暴言がいきなり飛び出した。
けど、怒っているんじゃないことはすぐに分かった。
怒っていたら、こんな風に俺の制服の裾を震える手で握りしめたりしない。

「すまない」
「……心臓が、止まるかと思った」

声は小さくて、弱々しい。
俺よりも鬼道の方が、よっぽど病人みたいだ。

「お前が倒れたって聞いた時」
「大袈裟だ」

ただの貧血だ、と続けるとまたばかと言われた。

「睡眠不足とも言っていた」

俺が起きる前に養護教諭から聞いたのか、鬼道は言う。

「ちゃんと寝なかったのか?」
「いや…」

言葉を濁すと鬼道の眉間に皺が寄った。
心配しているのが、よくわかる。

「…夕香が熱を出して…」

それで、と言うと鬼道の瞳が悲しげに歪んだ。
鬼道にも同じような経験があるのだろう。
頼る人がいなくて、ただ苦しそうな妹をみていることしか出来ない長い夜。

「………」
「鬼道……すまない」

鬼道の頬に手を伸ばして、口付ける。
いっぱい、心配したんだろう。
それでも、俺の口から妹のことが出れば、自分の過去と重ねて何も言わない。
分かっていて、夕香の名前を出した俺は狡い。

「…心配、した」
「わかってる」
「俺は…何も言ってもらえない程頼りないか?」
「頼りないからじゃない…かっこ悪い自分を見せたくなかった」

温かい鬼道の体に手を回す。

「豪炎寺…お前は本当にばかだ」

鬼道は唇を俺の唇に押し付けた。

「かっこ悪かろうが…俺は豪炎寺が」

いなきゃ、いやだ。
紡がれた言葉に、愛しさが込み上げた。

重たかった胸のうちが、軽くなった気がした。


―――

鬼道さん馬鹿馬鹿言いすぎです。
で、補足しますと。
豪炎寺のお父さんは夜勤で、フクさん(家政婦さん)も実家の急用とかで来られなくなって、したら夕香ちゃんが朝から熱出しちゃって日曜日は豪炎寺がずっと看病してたんです。今日はフクさんが見てくれてます。
ちなみに豪炎寺さんは授業中に当てられて立った瞬間に立ちくらみでぶっ倒れました。
円堂が放課になってすぐ鬼道さんに「豪炎寺が倒れた!!!」て言いに行ったんです。
はい、長いですね。補足がないと読めないってどんな…。

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