崩れてしまわぬようにと



「鬼道」
鬼道の部屋のドアを開けると、鬼道はベッドに腰かけていた。
いつもつけているゴーグルは外されて、鬼道の手にあった。
「円堂か、悪いが少しだけ休ませてくれ」
それはいつもと変わらない声音だった。
しかし鬼道が休める状態でないのは感じとれた。
「聞こえただろう少しでいい」
1人にしてくれ、と鬼道は俯いたまま言った。
その姿に、俺は部屋に入って鬼道の前にしゃがんだ。
「円堂…」
俺を呼んだ鬼道の目は薄く濡れていて、思わず言った。
「泣いたっていいんだぞ」
「…っ」
じわり、と浮かんだ涙を拭うと鬼道はベッドに仰向けに倒れこんだ。
右腕で目を隠したまま鬼道が呟くように言った。
「泣いたって…どうにもならない、だけど、このままでは…進めない…」
小さく震えた、弱々しい声。
鬼道がこんな声を出すのを初めて聞いた。
世宇子中に負けた時ですら、ここまでではなかった。
「分かっているのに…動けないんだ…」
「鬼道っ」
俺は我慢できなくて鬼道の腕を退けた。
涙を溜めた赤い目を見つめて頬を撫でる。
「泣いたっていいんだ、鬼道」
鬼道は、必死に我慢して、吐き出せないままでいる。
泣いてすっきりして、影山の死を片付けてしまいたくないんだ。
だけど、本当はきっと悲しくて寂しくて辛くて、そういうのを全部押し殺してるだけで。
「1人で全部抱え込まなくたっていいんだ、立ち上がるのに手がいるならいくらでも貸すから。鬼道は…1人じゃないんだ」
伝えたい気持ちが全部伝わったかどうかなんて分からない。
だけど。
「えん、ど…っ」
ぼろぼろと溢れ出した涙は本当で。
泣きじゃくる鬼道を抱き締めながら、明日はきっと歩き出せると、そう思った。


―――

thx!:あめあめてんし。

アニメ#106と#107の間くらいのイメージ。

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