わからないままでいたかった



円堂に英和辞典を借りた。
忘れ物をするとは、と自分でも情けなく思いつつ、放課に辞典を持って隣のクラスへ向かった。

「えんど…」

廊下から声をかけようとしたら、円堂の周りには数人の生徒がいた。
円堂は楽しそうで、こちらには気づかないようだった。

以前の俺なら微笑ましいと思えていたはずなのに。
出かかった声は、喉の奥で止まってしまった。

俺は、円堂の隣にいる、名も知らない相手が羨ましかった。

「鬼道!」

俺が立ちつくしていると、円堂が気づいたようでこちらへ駆け寄ってきた。

「ありがとう、助かった。」
「いーって、辞書くらい。俺もしょっちゅう貸してもらってるし。」

円堂はそう言って笑った。

「じゃあ、また部活でな!」
「ああ。」

輪に戻っていく円堂に、俺はいつもどおりの声で返した。


―――

thx!:青空式回転盤。

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