三歩進んで二歩下がる



その瞬間。
俺は頬を殴り飛ばされて尻餅をついていた。

「さ、」
「っざけてんじゃねぇぞ三之助!!」

びりびりと作兵衛の怒号が降ってくる。
握り締められた手は、また殴りそうになるのを必死に堪えているみたいだ。
震えている作兵衛の唇は未だぬるりと光っていて、厭でも目に入ってくる。

「…ごめん、もうしないから」

そう縋るように作兵衛を見上げれば、ギッと睨み付けられて閉口する。

「…っ、の馬鹿野郎が!」

頭冷やしやがれ、と早口に捲し立てて作兵衛は部屋を出ていってしまった。
部屋にひとり残された俺はただ呆然とするしかなかった。



口づけを、した。
作兵衛に。



どうしようもなくなった感情が、溢れだすみたいに込み上げてきて、堪らなくなった。
その薄い唇に触れてみたくなって、口づけた。
すぐに謝ったけど、次の瞬間にはぶっとばされてた。


怒ると思っていなかった自分が馬鹿だったのだ。

気持ちが悪かったんだろう。
もしかしたら、裏切られたと思ったかもしれない。

だって俺達は男同士で、きっと親友ともいえる関係で。
作兵衛も、そう思っていたはずだ。

俺の行動はそれをぶち壊したから。



「…傷つけたくなかったのになぁ」



静まり返った部屋に響いた声は、予想以上に情けなくて泣き出しそうだった。



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つづ…かない!

12.06.15



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