素直になれたらどんなに楽だったか



頬を撫でる風は穏やかだ。
中庭の桜の木は今年も美しく咲いたらしい、風に乗った花びらがゆるりと目の前を舞う。

「金吾」
花びらを見つめていると後ろから声を掛けられた。
「みんな行っちまったよ、あと残ってんのは俺と金吾ぐらい」
いつもの声音で続けられたことばに引き結んでいた唇が開く。
「…俺も、もう行く」
声は震えてはいなかったろうか。
気づかれては、いないだろうか。
出来ることなら、そのまま気づかないでくれ。
「じゃあ」
躊躇う事なく、門へ向かって足を踏み出す。
そうしてそのまま、門をくぐればいい。
ここから出たら、俺は流浪の旅に出る。
団蔵は馬借の棟梁を継ぐ為に村へ戻る。
もう交わることはない、別の道だ。
交わってはならないのだ。
家督を放棄した自分と、団蔵は違うのだから。
普通に妻を迎えて子を授かって、そうやって幸せになるのが団蔵の、当然で求めるべき未来というものなのだから。
その未来に、自分がいてはいけないのだから。
だから、振り返らない。振り返ってはいけないのだというのに。

「金吾」

…ああ、何で…。
腕を引かれて、無理矢理引き止められた。

「何だよ…団蔵」
「こっち向けよ」優しい声。
何度も何度も俺を包んでくれた暖かい声。

「…金吾」
「離せ…っ」

何で、そのまま行かせてくれなかったのだろう。
最後の最後に、どうして引き止めたりするんだ。
これで、終わりなんだって必死に言い聞かせていたのに。

「金吾、俺はお前が好きだ…」
「っもう、いい…俺とお前はこれっきりだから」
必死でついた最後の嘘。
「好きだなんてもう…思ってない」

自分を守る、最後の嘘。
団蔵の腕を振り払って、門の前に立つ。

「…達者でな」

自分を愛してくれた団蔵を、傷つけて突き放した。
溢れださんとする涙を何とか堪えて唇を噛み締める。
歩み出した足は止まらない。
背中に響いた、団蔵の声。

"幸せになれ"

すがりつきたかった。
団蔵が俺の幸せだ。
お前がいなきゃ幸せになんかなれない。
そう言って抱きついて、泣きたかった。
暖かい手に抱き締められたかった。
だけど、そう。
それはもう手の届かないところに。


―――

いきなり成長、しかもマイナー寄りな団金。
明日卒業式なので卒業ネタ。
不完全燃焼すぎる。
なんというか、この2人は卒業したら本当に離れ離れな気がする。
団蔵が忍者になったとしても、金吾が実家継いだとしても。
上手く書けないこの残念クオリティ。

thx!:恋のお墓



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