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「治療もせずに放っておくなんて何考えてるんですか貴方は」

左近は己に染み付いてしまった保健委員の習性に頭を抱えたくなっていた。
気づきたくもなかったことに気づいてしまった挙句、後輩に図星を付かれるなんていう事態になったのも、この相手が原因だというのに。
今は顔を合わせるのだって御免蒙りたかった位なのに、そんな相手を半ば無理やり医務室に連れ込んで2人きりだなんて自分は馬鹿じゃなかろうか。
左近は極力顔を上げないようにしながら塗り薬を高坂の腕に塗りつけた。

「そんなに酷いわけじゃ…」
「十分抉れてますけど。それに、程度によっては放っておけば膿んだり感染症を起こしてもおかしくないんです」

ぴしゃりと言い放てば、高坂は困ったように空いた手で頬を掻く。

「厳しいね」
「当たり前です。下手をしたら………」

くるくると、器用に高坂の傷口を隠そうとしていた包帯がぴたりと止まった。
顔をこちらに向けようともしない左近に、高坂はどうしたのか困惑顔だ。

「左近君?」
「………下手をすれば」

不意に左近は顔を上げた。
ごくりと喉が上下する音がして、ためらいがちに開かれた口から吐息が漏れる。

「…死ぬ事だって、あるんですよ。これは言い過ぎたことじゃない…」
「左近君…」
「貴方は、雑渡さんの為なら構わないんでしょうけれど」

そこまで言って左近は包帯の端をしっかりと結んだ。

「治療は終わりです、気をつけて帰ってください」

すくっと立ち上がり、自分に背を向けてしまった左近の肩に高坂は思わず手をかけていた。

「っ…めてください、…」
「こっちを、見てくれないか左近君。私は君に」

言いたいことが。
そう続けようとした高坂は声を呑んだ。
小さく震える左近の背中は、普段大人びた態度をとる彼を随分と幼く見せて。

どうしようもなくなった高坂は後ろからそっと左近を頭を撫でる。

「…っ、ふ…」
「すまない。私は君を傷つけているらしい」

鈍感だと言われて久しいが、ここまでとは思わなかったと高坂は続ける。

「君に言いたいことがあったんだけれど…左近君が聞きたくないと言うなら言わない。
 帰れというなら帰ろう。…だから言ってくれ」

私の言葉を、君は聞いてくれるか?






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