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「左近君に、伏木蔵君はもう子どもじゃないと言われましたよ」
「伏木蔵も5年生だもんねぇ…あの頃は肩に乗せてたんだから、そりゃ大きくなったと思うよ」

律儀に報告する高坂に、雑渡昆奈門は平時の声音でゆるりと返す。
あの子はそんなに背も高くないし軽いから今でも乗せられると思うけどね、と付け足された言葉にそう言う意味ではないと思った高坂だが、もちろん口にはしなかった。

「それはともかく、陣左、左近君に会ったんだ?」
「ええまあ…帰りがけに偶々顔を合わせたので少し立ち話を」
高坂がそう告げるのに雑渡はふうん、と答える。
「それが、何かありましたか?」
「いや、左近君ももうすぐ卒業…早いなと思っただけだよ」
雑渡の言葉に、高坂も出会ったばかりの頃の彼を思い出す。

あの頃の左近君は、今よりだいぶん小さかった。
あの保健委員会にあって、あまり自分とは話そうとしてくれない、そんな子で。
忍の卵らしいと言えばそうなのだろうけど、それでもやっぱり保健委員らしくお人よしで。
敵方の自分の怪我さえ治療してくれたことがあった。
まだ少しばかり拙い手つきではあったけれど、確かに治療してくれたのだ。
礼を言えば、どこか素直じゃない彼は、すぐにふいと顔を逸らしてしまったのだったか。

存外、自分は川西左近という少年のことをちゃんと見ていたんだなと、高坂は思った。
気に入っていたのかもしれない。あの子のことを。

「そう、ですね。彼も6年生ですから」

そう口から出して改めて実感した事実。
もうすぐ、医務室で彼の姿を見ることはなくなるのだ。
それは4年前の善法寺伊作が、そして昨年の三反田数馬がそうであったのと同じこと。
でも。

「…卒業したら、会う事もなくなりますね」

そこまで考えて、高坂はようやっと“寂しい”という感情に気がついたのである。
左近に会えなくなってしまうことは、何より寂しいのだと。




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テーマ「人外ファンタジー」
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