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夜も更けたこの時分に医務室で薬を作るのは、少なくとも4年前には保健委員長の慣例になっていた。
今年保健委員の長となった川西左近も例に漏れず、こうして1人薬研に向かっている。
医務室には乾いた薬草が磨り潰される音ばかりが響く。
単純作業を長時間行なっていると思考は考えたくもない所にたどり着くものだと、そう言っていたのはどこの誰だったか。
それはともかくとして、左近は今日顔を合わせたかの人の事を考えていた。




「…またいらしてたんですね、高坂さん」
「ああ、組頭に伏木蔵君を送るように頼まれてね」
曲者らしさの欠片もない所は彼が心酔している上司そっくりだと悪態を吐きそうな口を何とか閉じて、左近はその相手に言う。
高坂陣内左衛門が最近よく学園に足を運んでいることを左近は知っていた。
その理由は大抵、上司と恋仲にある伏木蔵を学園に送り届けるため、それだけである。
伏木蔵だってもう子どもじゃありませんよ、と言ったこともあったが、高坂は少し困ったように眉を寄せるだけだった。
あの頃のように小さな子どもじゃあ、ない。伏木蔵も、もちろん自分だってそうだと左近は思うのだが。
高坂にとってそれはどうだって良いことなのかも知れないとも感じていた。
彼はあくまで上司の命令に従ってここに来たまでのこと。
今も、数年前も、それは変わらない。彼は決して、己の意思でここにやってきているわけではないのだ。

「もうお帰りになったらどうですか…あなただって暇なわけじゃないでしょう」
つっけんどんに言ったところで高坂が怒るような空気もなく、それがまた子ども扱いをされているようで、左近を苛立たせた。
彼の中で自分はまったく変わっていない事を肯定されているようで、腹立たしかったのだ。

「じゃあ、また」
「…お気をつけて」
それだけだ。
左近と高坂の会話は、会ってほんの少しの立ち話。
左近にとって、高坂との間柄がこれ以上詰まる事がないのは分かりきっていることなのだ。
彼は出会ってから4年間、左近だけのことを考えた時間などないだろうと思う。
最初は上司が遊びに行く相手の後輩で、今は上司の恋仲の先輩。その程度だろう。
結局彼の中で、自分はなんでもない、取るに足らない存在なのだろう。




「…くっだらない」
やめだやめだ、と首を振る。
あの人の中で自分がどういう存在かだなんて、考えるだけ無駄なこと。
別にどうだっていいことじゃないか。
左近は思考に蓋をした。
彼のことばかりを考えている自分がおかしいことに、気づいてしまったからだ。
「なんなんだよ、もう……」
ばかみたいだ。




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