しゃべらなくていい

高尾はよく喋る男だ。
やかましく話しているのが常で、話題を振るのも面白おかしく茶化すのも別段難なくしてみせる。
相手を見るのに長けているせいかどんな相手ともそれなりに楽しそうに話してみせるものだから、子ミュ力が高いなんて評される所以はそこにあるのではないかと緑間は思っている。
そしてそれはどうやら性分らしいとも、高尾の近くで過ごす数ヶ月で感じていた。
とにかく緑間は高尾が静かなところを見たことがないのだ。


「んで、そん時こいつがさー」
「オレのせいにすんなよバカ」
「それ言ったら高尾だって乗ってきただろーがよ、なあ?」
「オレかよ」

ぎゃははと笑う声に、緑間はすっと目線を動かした。
何度目かの動きに慣れたように、緑間の目はすぐにその姿をみとめる。
第2多目的室の並んだ長机と長椅子の向こう、数人の男子生徒がまとまっている中に高尾はいた。
5限目が始まるまで、あと10分程度だが高尾は既に着席している緑間とは対照的に、クラスメイトと何やら楽しげに喋っている。
ありふれた光景をはじめは気にも留めなかった緑間だが、ちょっとした違和感に、はてと疑問を感じたのだ。
いつものように茶化し、いつものように笑っているはずなのに、そんなことを感じた自分に緑間はもやもやとした気持ちを抑えられない。
まだ授業は始まらないだろうかと、ちらりと時計に目をやっても針の位置は先ほどとほとんど変わっていなかった。


早く進め、早く。

時計の針にそう願っていたのは、ほかでもなく高尾だった。
普段なら休み時間に感じることなどない今の気持ちに、苦笑が漏れそうだがそれすらも億劫だというのだから困ってしまう。
近くで響くクラスメイトの笑い声もうっとおしさに変わり、周りの声どころか自分の声すら他人事のように感じた。
まるで鷹の目で上から見てるみたいだなんて頭の隅で考えながら、高尾はまたへらへらと笑う。
体調が悪いわけではないはずなのだが、なんだか気分が落ち込んでいるような…そんな感覚が抜けない。
高尾はため息をつきたい衝動を押さえつけた。
騒ぐのは嫌いじゃない、寧ろ好きなはずだ。
話すのも嫌いじゃない、笑うのだって別にいつも無理してやってるわけじゃない。
でも、今は。
そんな考えが浮かんでくるたびに高尾は顰めたくなる眉を引きとめて、再び意識を話へ戻す。
処世術だ、人間なんだからいつだって本当に楽しんでるわけがないだろう。
多少の無理や我慢で空気が壊れずに済むなら、それでいいじゃないか。
高尾はもやもやと息苦しい胸を、頭の中を切り替えるように、すっと息を吸い込んだ。

「っうお、どしたん真ちゃん?」

次の瞬間、何故か高尾は緑間に腕をつかまれていた。
突然の行動にその対象の高尾はもちろん、一緒に話していたクラスメイト達も何事かと目を白黒させている。
しかし、相手は未だクラスどころか学校きっての変人の名を欲しいままにしている緑間だ。
何だったのかは後で聞くとして、とクラスメイトは残り少ない休み時間を続けることにしたようだ。


「急にどーしたんだよ真ちゃん、オイ緑間って」
そうしてそのまま強引に引っ張られていった高尾は、訳も分からぬまま緑間の横に着席していた。
理由を聞いても緑間からの答えが返ってこないのに、高尾は困ったようにまた問いかける。
「なあってば」
「別に、オレとは無理に話す必要はないのだよ」
「…は?」
今まで反応がなかったところへ唐突に返された返事。
緑間は時計を確認すると、あと5分ある、と高尾に言って予習だろう教科書をパラパラと捲りだした。
さっきまで動いてないかのようだった時計は、いつものように休み時間らしく速度を上げて動き出したようだ。
「……やっさしーんだから、真ちゃん」
「うるさいのだよ」
高尾は緑間の隣で姿勢を崩すと、緑間の顔を見上げて笑う。
「あんがとな」
オレとは無理に話す必要はない。
息が楽に吸えた。
喋っていなくても、高尾は高尾なのだと、肯定された気がしたからだろうか。
そんなことを考えながら、高尾は時計よ止まれなんて唱えてみた。

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ネタ帳より喋りたくない高尾の話です。
真ちゃんの心理描写が上手いこと入れられなかったので、読まれる方、補足してやってくださいませ…。

13.03.08 こよし


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