橙扇さん

「珍しいな」
スカートからするりと伸びた黒に視線を向けながら、オレは高尾に言った。
「あータイツな、今日の朝ほら急に寒かったっしょ、だからさぁ……変?」
スカートをそれとなく少し下に引っぱりながら笑って答えていた高尾の声は、徐々にしりすぼみになって沈黙する。
オレは高尾の脚を眺めると、ああなるほどと合点した。

脚は高尾のひそかなコンプレックスだ。
バスケのために鍛えているその脚は、確かに他の女子に比べれば幾分逞しい。
だが、激しく動くバスケに脚の筋力は必須であるし、なにより高尾におけるバスケの優先順位を考えれば、コンプレックスを抱くのは不思議ですらある。

「ちょ真ちゃん…、あんま見ないでほしーんだけど」

気づけば釘付けになっていたようで、高尾は困ったような顔でオレを見上げていた。
…解せない。
強くなりたいと必死に鍛える一方で、鍛えたそれを恥じるのが。

「なぜだ」
「何故って、そりゃ…だって…真ちゃんの傍にいたら、ちょっとはコンプレックス感じたりすんだって」
「オレだと?」
「だっから、真ちゃんの周りに来る女の子…みんな脚細いきれいな子ばっかじゃん」

バスケ部のマネージャーの子とか、委員会の子とか、クラスの子だって。
そう言いながら高尾は俯く。
前髪で隠れて顔は見えないが、その頬は恥じらいから少し赤らんでいることだろう。
つまりは、ちょっとしたやきもちだったのだ。高尾なりの。
高尾がオレの一番近くにいる以上、他の女子の傍に立つことはそれなりにある。
それが彼女に、幾ばくかの劣等感を与えていたらしい。
そんなことかと思う一方で、堪らなく愛しさがこみ上げてきた。

「オマエは…」
「っ、だって」
「高尾、オマエは十分に魅力的なのだよ」

その脚もそそる、とオレの口から出た言葉に高尾はまた顔を赤くした。

「なっ、なんっ…どしたの真ちゃん」
「オマエがどう感じているかは知らないが、オレはオマエがコンプレックスだというその脚も好きだ」

だから大事にしろ。
そう言ってやれば、言葉を失ったようにぱくぱくと口を開閉させる。
まったく、困った奴だ。

「だから、変ではない。似合っているのだよ。…寧ろ…」

似合いすぎてオレが気が気でない、などと言いかけて、オレは眼鏡を押し上げた。


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橙扇さんリクエスト「緑間と女バス高尾♀で甘い話」です。
高尾ちゃんはアスリートですので、多少なりとも素敵な脚をお持ちなんじゃないかということで、こんな話になりました。
甘…いというか、真ちゃんが高尾ちゃん好きすぎるというか。
この度はリクエストありがとうございました。

12.11.18 こよし

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