ちゃーさん

ああもうだめだ、と心が悲鳴をあげる。
真ちゃんが幸せならオレは大丈夫だと思っていた。
結婚できないだとか、子供ができないだとか?そんなもの真ちゃんがいれば我慢できるから、なんて。
「別れてほしい」
だけど、ああなんてバカなオレ。
甘いにも程があった。ずっと一緒なんて、そんなこと。
赤く腫れた真ちゃんの頬を見ながら、なんとか口を動かす。
「他に好きな人ができたから」
オレたちだけの問題じゃない。
緑間真太郎は、大事な大事な一人息子様なんだから。
「ふつうの、…女の子だよ、だから」
分かってたじゃないか、認めてもらえるわけがないなんて。そんな当たり前なこと。
「別れよう、緑間」
オレは真ちゃんといたいけれど。それでも。
オレが、真ちゃんを不幸にすることだけは…耐えられなかった。


2人で暮らしていた家を出て、携帯だって番号もアドレスも変えた。
冷たい部屋は1人ぼっちなことをオレに痛いくらい伝えてくる。
2人分の食事も、広いベッドも、…大切な相手すらここにはない。
そうやって、オレの中から真ちゃんが消えてしまうようにした。
甘い夢はもういらない。その夢は覚めてしまうのだから。だったら、もう…そんな夢は見たくない。
なのに、それなのに、なんで。

「…なんで来たんだよ、オレ…彼女いんだって言ったろ」
必死で閉めようとしたドアの間にその左手を無理矢理入れられれば、もう閉められるはずがない。
分かっていてやっているのだとしたら、真ちゃんてば本当に意地悪だ。
そんなことを思いながら俯いたまま出した声は思いのほか低くて冷たい。
「高尾のついた嘘くらい分かるのだよ」
「っ…じゃあなんで、なんで今更なんだよ…!」
別れようと言ったオレに、分かったと頷いた真ちゃんが…今ここにいる。
それは、裏切りだった。
幸せになってほしいから、手を離したのに。
「なんで…ッ、オレからはなれてくれねぇの?」
オレから解放したら、真ちゃんは幸せになれるはずだろう?

「そんなもの、オマエが泣くからに決まっているだろう」
ため息混じりなその声に、顔は上げられなかった。
「別れたいと言った時、オマエはオレの頬ばかり見ていた…まるで別れなければならないんだと、言い聞かせるみたいに」
力強く抱き寄せられて、腕の中に閉じ込められる。
オレの顔は真ちゃんに押し付けられていて、頬からじんわりと熱が伝わってきた。
服の下で真ちゃんの心臓がどくどくと跳ねている音が聞こえる。
「本当は…分かったなんていう気は無かったが、…高尾」
「な、んで…だよ」
服に縋りつくみたいに爪を立てて、掠れた声をあげる。
「オレは不幸なんかじゃないのだよ」
「…しん」
「高尾と過ごしたこれまでも、これから先も…間違いだったと、そう言う気はない。それだけは、絶対に」
オマエにもそう感じてほしくないから、だからちゃんと…父親に分かってもらえるまで時間がほしかった。
そう言った真ちゃんの顔を、今ようやくちゃんと見られた。
「、泣くなよ…」
「泣いてなどいないのだよ」
そんなに腫らして痛くないのか、なんて聞けなかった。
「オレは、…これから先も高尾の隣にいたい」
差し伸べられた手をとることが許されるのなら。
「オレと歩いてほしい」
「真ちゃん」
オレは、真ちゃんを幸せにする力がほしい。


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ちゃーさんリクエスト「別れ話からの復縁」です。
別れ話というリクエストだったのですが、…リクエストに沿えていると言っていいのやら心配です。
色々気になる点はあると思いますが、補完していただくという形でよろしくお願いします。
大変お待たせして申し訳ありません。このたびはリクエスト、ありがとうございました。

12.12.09 こよし

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