瑩十さん

日曜日の昼下がり。
約束と違わぬ時間に高尾の家を訪れた緑間は、目の前の布団の塊を見下ろしていた。
親が妹連れで外出しているから家に来いと誘ったのは高尾の方だった。
けれどチャイムを鳴らせど出る気配はなく、仕方なしに電話をすれば風邪を引いたから来るなと言うもっともな理由が返ってきた。
だが既に家まで来ているわけだし、仮にも恋人である高尾が1人で寝込んでいるのに放っておくのは薄情というものだろうと、緑間は何度も来たことのある高尾の部屋に足を踏み入れたのだ。

「高尾」
「帰れってば…!」
「オマエが顔を見せればすぐに帰るのだよ」
「無理なんだよ」

部屋に入れば高尾はすっぽりと布団にくるまったまま出てこようとしない。
何を言おうと暖簾に腕押し、まるで聞き入れない高尾の強情さに緑間は仕方なく諦めたようにベッドサイドに腰を下ろした。
ぽんぽんと布団の上から何度か背中をたたいていると、長い沈黙の末に、布団の中で、すんと鼻をすする音がした。

「…泣いているのか?」
「っ、…ふ…」

漏れる声に涙が混じり、震えるのに緑間は思わずその布団を無理やり引き剥がしにかかる。
高尾は必死に布団を掴んで身を縮めていた、が。

「、あ…!」
「っ…?!」

ぴょこん、と顔を出したソレに緑間は目を見開いた。
高尾の頭についたソレが、ふわふわとした耳が、ふるりと揺れた。

「あ、…っや…見んな…!!」

見ないでくれ、と小さくなって泣きながら必死に耳を隠すが、やはりその耳は猫のソレだ。
いったい何が、どうして、そう緑間が問えば高尾は震える唇で分からないと答える。
急にこんなことになって不安なのだろう、泣き濡れた顔は不安げに青ざめている。

「高尾…」

とにかく泣き止ませなければ、と緑間が口を開くと、高尾の顔からまたさっと血の気が引いた。

「や、だ…嫌いにっ…なんないで」

高尾の言葉に、…怖かっただろうにと緑間は眉を寄せた。
何故こうなってしまったのか、ちゃんと戻れるだろうか、そんな恐怖もそっちのけで高尾は…1人で泣いていたのだ。
自分に嫌われるのが、怖くて、言うこともできずにただ小さくなって泣いていたのだ。
オレは猫は嫌いだ。確かにそうは言った、事実だ。…だが、と緑間は自分の手を持ち上げた。

ふわり、と耳に触れた手に高尾はびくりと体を強張らせる。

「あ、…ぁ真ちゃ…」
「どんな見目であろうとオマエはオマエだ、高尾」

だから怖がるな、もっとオレを頼れ。
そう言って高尾の体から力が抜けるまで、緑間はその体を抱きしめていた。

---

瑩十さんリクエスト「緑間と猫耳尻尾が生えた高尾で緑高」です。
今回設定が特殊でしたので説明が多くなってしまいまして内容が尻切れトンボになったり、尻尾要素として感情が尻尾に出る高尾ちゃんも書きたかったのですがカットになったりと、リクエストに沿いきれず申し訳ありません。
拙いですが妄想の糧にしていただければ幸いです。
この度はリクエストありがとうございました。

12.11.18 こよし

[ 8/18 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -