黒さん

ああまたか、と教室を出ていく緑間の姿を目で追った。
緑間の机の上には緑間の弁当と、今自分が置いた惣菜パンが並んでいる。
先に食べていろと言われた通り、パンの包装を破ってむぐむぐと咀嚼した。
向かい合うはずの場所は、当然ぽっかりと空いている。
もぐもぐ、もそもそ、ただ齧って噛んで飲み込むだけの作業はすぐに終わってしまい、オレは呆然と誰も座っていない席を見つめた。
緑間がモテるのは今に始まったことではない。
そして緑間が呼び出しに律儀に答えるのも、今に始まったことではない。
実直で何事にも人事を欠かさない緑間は適当にあしらう、ということをしないのだ。
だから、いちいち目くじらを立てるような女々しい真似はしない。
そう決めていたし、これからもそうあるつもりでいる。

だが…この空虚感は何だろう。
もやもやとした感覚はどんどん膨れ上がって、息がつまる。
吐き出したいのに、吐き出せない。
ぐるぐると胸の中でとぐろを巻くような気持ち悪さが取れなかった。
待つことを放棄して教室から逃げてきたオレは、人気の無い校舎裏まで来てため息をつく。
「あーあ……」
かっこわりぃ、と呟いた音は本当に情けなくて、泣きそうになった。
バカみたいに不安になって嫉妬して、緑間を信じて待てない自分は、どうしようもなく…カッコ悪い。

「何がなのだよ」
唐突に後ろから掛けられた声にびくりと肩が跳ねる。
立っていたのは案の定緑間で、オレは眉を下げる。
「なんで」
「オマエが…そんな顔をして歩いていたから、気になったのだよ」
そう言った緑間のほうがオレよりよっぽど困った顔をしている。
しょうがないなと笑ってやれたら良かったのだけれど、そんな顔で告白を断ってきたんだと思ったら我慢できなかった。
「たか…ッ!」
おずおずと伸ばされた手を引っ張って、無理矢理唇に噛みついてやる。
「ッオマエは、…なんて顔をしてるのだよ」
抗議に開いた緑間の口が歪む。
なんて顔?どんな顔だ。
「高尾」
「うん」
ふるふると唇が震える。
「少しは自惚れろ」
「う……え?」
ぐい、と抱き込まれた体は暖かい。
「真ちゃん?」「オマエは…聡いのか鈍いのか分からないのだよ!」
「や、だって…なに…」
緑間の胸元しか目に入らない体制のまま、そう声を上げればまた盛大なため息が降ってきた。
「いいからオマエはオレを信じていればいいのだよ」
オマエはオレの恋人で、オレはオマエのものなのだから。
「…なんとか、言ったらどうなのだよ」
「っ、…ん」
嬉しい、嬉しいんだよバカ野郎。
喉から声にならない声が漏れる。
赤面してしまった顔を隠すように、オレは目の前の服にすがりつくだけだった。

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黒さんリクエスト「モテる緑間に嫉妬する高尾」です。
最後は甘いのを希望ということでしたが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
うちの高尾ちゃんホントに言葉にしない子なので、自然と真ちゃんがリードしてます。
この度はリクエストありがとうございました。

12.11.11 こよし

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