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以下から緑高で喫茶店パラレルの拍手連載をしています。(現在1話のみ)


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オレの行きつけの喫茶店に、高尾という男がいる。
大学と、一人暮らしをしている家との間にある小奇麗な喫茶店。
そこの店員の一人が高尾だ。

「いらっしゃいませー、お…真ちゃんじゃん」
「その、真ちゃんというのは止めろと何度も」
「今日もオリジナルブレンドで?」
「…頼むのだよ」
「かしこまりましたー」

黒のソムリエエプロンをひらりと返して、高尾はカウンターの向こうに引っ込んでいった。
席を確認しなかったのは混んでいない限りいつもオレがそこに座るのを知っているからだろう。
混んでいたところで、なぜか高尾はオレのいる席をすぐに見つけるのだが。
ともかくもオレはいつもと同じ窓際の席に座ると、コーヒーが来るまでの間にと文庫本を取り出した。

この店に初めて来たのは、大学に入って暫くした頃だった。
講義と課題に加えて、慣れない家事と少しのアルバイト。
急激に変わった生活の環境やリズムに、酷く疲れていた時期だ。
喧騒から、逃れたかったのかもしれない。
そこにあったのがこの小さな喫茶店だったから、その扉をくぐった。
それがこうも生活の一部に組み込まれるようになるとは思っていなかったけれど、恐らく運命だったのだろう。


「お待たせしました、オリジナルブレンドでっす」

殆ど頭に入ってきてはいなかった文庫本を閉じて顔を上げる。
そこでオレは、はてと首をかしげた。
高尾が持ってきたトレイの上には、コーヒーのほかに見慣れないコースターが一つのっている。

「…それは何なのだよ」
「あれ、蟹座の明日のラッキーアイテムってコースターじゃなかったっけ?しかも手製指定」

当たり前のように言われて、思わず固まってしまった。
何故高尾はオレの明日のラッキーアイテムを知っているのかとか。なんで渡してくれるのかとか。
思うことは色々あったのだが、聞くより先に高尾はさらりと言葉を進める。

「持ってるんだったらいいんだけど、よかったら持ってってもらおっかなーと」

うちの店で使ってるヤツだから新品ってわけじゃないけど、元はオレの作った私物だし。
真ちゃん、ラッキーアイテム無いと大変なんだろ?
そんなことを言って高尾はコースターとコーヒーをテーブルの上に置く。

「預からないこともない」
「はは、そりゃ良かっ……ん?預かる?」

オレがコースターを手に言うと、高尾は首を傾げた。

「あさって、返しにまた来るのだよ」

それで問題ないだろう。
高尾が笑いながら了解するのを確認すると、オレはコーヒーのカップに口をつけた。

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12.12.30
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テーマ「人外ファンタジー」
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