カシス 思い切り赤い液体をかけられて、心底うんざりした。 甘ったるい匂いが鼻をつく。 「血みたいでいいね」 臨也はうっとりと言う。 静雄の真っ白なシャツは酒の赤で染まっていて、金の前髪からはぽたぽたと液体が零れていた。サングラスがなければ目に入っていたかも知れない。 床には酒の瓶が転がっている。きっと高額であろう高級なそれは、静雄にかける為だけに買ったのだろう。こいつはそういう男だ。 静雄は床に唾を吐いてポケットから煙草を取り出す。 真っ白な煙草にも少し朱色が飛び散っていた。 静雄が煙草に火をつけて煙を吸い込む様を臨也は黙って見ている。 「拭いもしないんだ。可愛いげないなぁ」 「死ね」 白いシャツには染みが残るかも知れない。弟から貰った大事なシャツだってのに。 「まあどうせ脱ぐからいいよね」 臨也は真っ黒なソファーに座って、手招きした。 静雄は沸き上がってきた怒りを煙草を吸うことで紛らわせる。早くこいつ死ねばいいのに。 臨也は動かない静雄の手首を掴んで引き寄せた。 細い腰に手を回し、自身の膝の上に抱き寄せる。 「酒臭いね」 「手前のせいだろ」 臨也の手がゆっくりとボタンを外していくのを静雄は煙草を吸ったまま見ていた。酒がかかった肌は少し冷たい。 「煙草消してよ」 「嫌だ」 取り上げられた。 臨也は掌で煙草を揉み消す。熱くないのだろうか。火傷しちまえばいい。 でかいソファーの上で全裸にされた。エアコンが少し肌寒く、ぞわりと鳥肌が立った。 キスが下りてきて、意識が臨也に向けられる。薄目を開けて盗み見れば、臨也の長い睫毛が視界に入った。 そのままペロリと頬を舐められる。酒を舐め取っているらしい。 首筋に吸い付かれ、跡をつけられた。その後は腕、胸、腹、足と、酒の味がする箇所は全て臨也の熱い舌で舐められた。 「酔うぞ」 「もう酔ってるから」 なにに?とは聞かなかった。 臨也の手はそのまま愛撫を強くしていく。静雄は声を上げないように唇を噛み締める。 「声出せばいいのに」 「くたばれ」 「どうせ最後には出すんじゃん」 低く笑うその声に腹が立つ。 大体何で俺だけ裸なんだ。 目の前の男は頭から足まで全身真っ黒な衣服を着ている。 「早く脱げよ、ゴキブリ」 「…ちょっと傷付いたんだけど」 言いながらも臨也は衣服を脱いでいく。細く白い身体。きっと食いついたら不味いんだろうなと考える。 「今シズちゃんが考えたこと分かっちゃったから言うけど、ガリなのはお互い様だから」 「うるせえ人の心読むな、死ね」 くくく、と臨也は笑ってキスをしてきた。酒の味がする。こっちまで酔ったらどうしてくれる。 「もう酔ってるのに。お互い」 「読むなって言ってんじゃねえか」 「シズちゃんは分かりやすいのさ」 臨也は笑って静雄の頬を撫でる。その行為を甘んじて受けながら、静雄は目を瞑る。 目を閉じる前に見た臨也の手には赤く火傷の痕がついていた。 ざまあみろ。 (2010/07/25) ×
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