『結婚しませんか』






「は?」
門田は耳を疑った。
「酔い潰れてるネー。連れて帰ってヨー」
混血のロシア人が指差した先は、金髪にバーテン服の男と、黒髪に黒ずくめの服装をした男。
二人は共にカウンター席に突っ伏して酔い潰れており、かと言って仲良く飲んでいたわけではないらしく、間には席が二人分開いていた。
どうやらいつものように喧嘩をしてサイモンに止められ、強引に店に連れて来られたらしい。
「何で俺が…」
門田は愚痴るものの、二人をそのままにしては置けず、いつもの三人に手伝わせて運ぶことにした。



「シズちゃんってこうやって見ると弟クンと似てるよねー」
「わ、写メなんて撮ったのばれたら殺されるっすよ!」
「イザイザは寝顔もやっぱり美形よね」
「いやいやいや、こっちもばれたら何されるか!」
「…狩沢、悪いことは言わんから消しとけ」



「で。何で僕ん家なの?」
顔に大きく『迷惑』と書いた新羅は不満ありありだ。
「すまん。静雄の家も臨也の家も知らなくてな…」
門田は素直に謝った。門田自身は実家だし、さすがに二人もの人間を置く所はない。思いついたのは近場の新羅の家しかなかった。
新羅は門田の真摯な様子に仕方がないね、と苦笑する。
「セルティが静雄を心配して泊まる部屋を用意しちゃったし…。取り敢えずベッドに寝せておこう」
客人用の大きなベッドに、二人をそのまま寝せる。
「…一緒に寝せちまっていいのか?」
起きたら大惨事ではないだろうか。考えただけで門田は恐ろしい。
「大惨事の前に大混乱だろうね。ちょっと楽しみだ」
アハハ、と笑う新羅はやはりこの二人の友人なのだと門田は思った。
その後、写真を撮りたがる狩沢を強引に止めさせて門田達は帰って行き、新羅とセルティも就寝する。
やがて同衾状態の犬猿の二人は、片方が目を覚ました。



臨也はうっすらと瞼を開けると、目に飛び込んできた金髪に瞬時に覚醒した。
「…は?」
ここはどこだろう。
慌てて身を起こし、部屋を見回す。
枕元に小さなスタンドが置いてあり、それのスイッチをつける。
薄暗かった部屋が少し見易くなった。
…新羅の家か…。
壁や家具から、そう判断する。
何故自分がここに居るのかはサッパリ分からなかったが、酔って寝てしまった事は覚えていた。
――…にしても。
チラっと、隣で安らかな寝息を立てる青年に視線を落とす。
よりによってシズちゃんと同じベッドとか…新羅の奴…。
もしこれが自分ではなく静雄が先に起きたらのなら、自分の命はなかったかも知れない。
いくら寝ているとは言え、臨也は自身の手で静雄を殺せるとは思っていない。残念ながら戦闘能力の差は雲泥だし、警察に捕まる気なんてこれっぽっちもなかった。が、これが反対だったなら。
静雄なら後の事など考えずに即座に殴って来るだろう。しかし案外変な所で真面目なので、寝ている人間に攻撃はしないかも知れない。
結局のところ静雄の行動は臨也には読めない。理解しようとしても無駄な存在なのだ。
静雄はまだ寝息を立てている。
こんな至近距離で平和島静雄という稀有な存在を見るのは初めてだと気付いた。
まず睫毛が長くて驚いた。眉毛は綺麗に整えられているし、髭も綺麗だ。意外に見なりに気を使って居るのは弟の影響なのだろうか。
顔は良く見るとその弟に似ている。背も高く細いので黙っていればスカウトぐらいはされるかも知れない。黙っていれば、だが。
薄く開いた唇は赤く、寝息に合わせて時折震えている。首筋は白く、肌は思っていたよりも日焼けはしないらしい。
ふと思いついて手を取ってみる。温かい。爪も綺麗に整えられていた。理不尽な力を奮う拳だと言うのに、指は細く綺麗だった。
「ふうん」
この平和島静雄と言う化け物は、どうやら人間の基準で言えば美しい身体をしているらしい。勿論中身が伴わなければ意味はなく、その点に関しては自身もあまり強く言えないのだが。
ふと思いついてシャツのボタンを外して行った。
中から表れたのはピンク色の乳首と、真っ白な傷一つない肌。
「あんだけ切り付けてんのに傷一つないとはね」
臨也は苦笑すると、静雄の肌に手を這わせた。
ぴく、と静雄の体が震えるが、起きる気配はない。
ゆっくりと乳首を避けて撫で付けて、少し割れた腹筋の形を確かめた。
あー…やばいな。
ここまで来ればさすがに臨也もハッキリと自覚をしていた。
この平和島静雄という化け物にどうやら自分は欲情しているらしい。
「…まだ酔ってんのかな」
口にしても答えなど誰からもあるはずもなく。
頭の中でもう一人の冷静な自分が、もうやめろと警鐘を鳴らしていたが、手は止まらずに相手のベルトを外してしまった。
ジッパーをゆっくりと下ろし、まだ柔らかい性器に触れた。
ま、酔ってるってことにしようか。
臨也はそう結論づけ、静雄の両足の間に座り、性器に舌を這わせる。まだ柔らかなそれは、独特の感触だった。
ちゅる、と唾液を塗りたくり、手を使って高めていく。
まだ本人が完全に覚醒していないのに、何故かそこだけは硬くなってゆくのだから不思議だ。
「…あっ」
甘い声が頭上から上がり、一瞬臨也は動きを止める。
まだ寝ぼけた様子の静雄が、ぼんやりと目を開いて臨也を見下ろした。
「なに…」
「おはよう、シズちゃん」
「いざ…や?」
「可愛い声。シズちゃんってそんな声も出せるんだ」
言うが否や、臨也は静雄に口づけた。
「んっ」
舌先で唇の内側を何度もなぞる。歯列を割って侵入し、静雄の舌を見つけ出すと強く吸い付いた。
やっと目が覚めたのか、静雄は目を見開き、そのあと直ぐにぎゅっときつく目を閉じた。間近の臨也の顔を見たくなかったのかも知れない。
長い口づけで蹂躙し、やっと唇を離した頃には静雄は肩で息をしていた。
長時間の喧嘩でもなかなか疲れない静雄の呼吸が、たかがキスで。
「これってシズちゃんの弱点になるのかな?」
唇の両端を吊り上げて嗤ってやれば、静雄は目に見えて赤くなった。涙で潤んだ目をしながら、照れなのか怒りなのか、判断のつかないその表情は、臨也の下半身に刺激された。
「ね、今だけは喧嘩無しにしよう。これで騒いで新羅とセルティが駆け付けたら、シズちゃんのこんな姿見られちゃうよ」
そう言い終わると臨也は静雄の股間に顔を埋める。
ぴちゃぴちゃとわざとキャンディーを嘗めるように静雄の性器を弄ぶ。
「…ふ、ざけ…んな」
怒りと嫌悪と戸惑いと、色んな感情が混じり合った目をした静雄の顔は、臨也は当然だろうなと思う。恐らく今の静雄が自分に抱く一番の感情は、殺意かも知れない。
それでも恥ずかしさと快感のせいか、静雄はいつもの力が全く発揮できないようだ。あんなに数年も殺し合いという追いかけっこをしてきて、彼の力を封じ込める弱点がセックスだなんて。
喉の奥いっぱいに頬張って、舌で先端を幾度も愛撫する。先走りが溢れているせいか独特な味がした。臨也だって同性の性器を嘗めるなんて初めてだ。きっとこの先もう一生ないだろうが。
「臨也…、もうイ…く…」
切羽詰まった声に静雄を見ると、顔を真っ赤にして震えている。目はぎゅっと閉じられ、口を手の甲で押さえている。目の端に涙が溢れてぽろりと落ちた。
「シズちゃん、すごい可愛いなぁ…」
今にも射精しそうな静雄のそれの根元を押さえながら、臨也はまた静雄に口づけた。
舌でも噛まれるだろうか、と思いながらも深く口づける。
静雄は睨みつけながらも黙って口づけを受けていた。ぴちゃぴちゃと互いの唾液が混ざり合って口端から落ちる。
「早…く、イかせろよ、バカ…」
「ちょっと待って」
臨也は静雄の性器の先端に口づけを落とすと、そのまま下へと唇を移動した。
ピンク色をした可愛らしい穴へ舌を這わせる。
「あ…っ、」
びくっと静雄の体がはねた。
丁寧に皺を伸ばすかのように舐めて、舌を差し入れる。唾液を流し込んで、指を一本入れてみた。
「きっついね、痛い?」
臨也が聞けば、静雄は首を振る。パサパサと金髪が揺れて音を立てた。
「でも気持ちわりぃ…やめろ…」
本来排泄するのが目的の場所に、異物を挿入されたら確かに気持ちが悪いんだろう。
それでも性器を擦りながら穴に指を出し入れすると解れてきた。挿入する指の本数を増やす。
静雄は唇を噛み締めて声を押さえ、両手はシーツをぎゅっと握ってる。まるで初めての痛みに堪える処女だ。
まあある意味処女なのか。
臨也は口端を吊り上げて笑う。初めてが殺したい程に憎い相手だなんて何て滑稽な事か。
穴の奥にあるしこりのような物に指の腹が触れた。その途端に静雄の体がまたはねた。
「あっ、…んん…っ」
可愛らしい声。声だけで臨也の股間に血が集まるのが分かってしまう。全く反則だ。
「ここ、気持ちいいの?」
指の本数を更に増やした。ピクピクと静雄の内腿が震える。
「…あぁっ、…あっ」
「もう指がこんなに入る…。ぐちょぐちょで熱々だ。シズちゃんって結構セックスの才能あるかもね」
「…っ、死ね」
潤んだ目で睨みつけて来るその顔は最高に可愛い。
臨也はそんな風に感じる自身に眩暈がする。
静雄の真っ白な足を自身の腰に絡ませてやり、臨也はそのまま一気に静雄に挿入した。
「痛っ、…あ…っ」
「あっつ。…うわ、すんなり入った」
ぎゅううと締め付けて来る感触に臨也は直ぐにでもイきそうになってしまう。
「もっと緩めてよ。イっちゃいそ…」
「どうやればいいか分かんねえよ…」
「つーかシズちゃんの中、めっちゃ気持ちいい」
臨也はそう言って静雄の性器を擦ってやる。
「あ…んっ、」
甘い声と共に締め付けが緩み、臨也は更に奥へと腰を進めた。
「あー、本当に気持ちいい。俺とシズちゃんって体の相性良いのかな」
「死ね」
静雄から拳が飛んできたが躱せるスピードだった。
ぎゅ、とまた静雄の内部が締まる。
「…う」
「動くからだよ」
臨也は楽しげに笑った。
「次は俺が動く番ね」
静雄の細い腰を抱いて、穿つ。
段々と素早く腰を打ち付ければ、静雄から嬌声が上がった。
先程指で見付けた感じやすい箇所を何度も攻める。ぐしゅぐしゅと結合箇所からいやらしい音が響いた。
「あっあっ、…あんっ」
はあはあと息も荒く、静雄は喘ぐ。
「ああ、シズちゃんマジ可愛いなぁ…」
臨也は心底そう言って、静雄の乳首を口に含んだ。舐めたり噛んだりしながら、腰は攻めるのを忘れない。
「可愛いって言うな」
目元を赤くしてこちらを睨んで来る様はまた可愛いのだが、臨也は黙っておいてあげることにした。
「シズちゃん気持ちいい?」
パンパンと互いの肉体が触れ合う音がする。
静雄はシーツを握り締めながら首を横に振った。本当に素直じゃない子だ。
「こう言う時は俺にしがみつくんだよ」
シーツから自分の肩に手を回してやる。最初躊躇いがちだった静雄の手が怖ず怖ずと背中に回された。
うわあ、マジで可愛いなぁ。
ギャップ萌えってやつなのだろうかと臨也は真剣に考える。
「いざ…や、もうイく…っ、」
「うん。一緒にいこうか」
臨也は更に腰の動きを早くした。同時に静雄の性器も擦ってやる。
「あ、っあっあぁっ」
一際高い静雄の嬌声と共に、臨也も静雄の中に果てた。



続く。
(携帯で見れない人用に分けました)

(2010/07/24)
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