Active heart A


卒業して数日経つとクラスで早速飲み会なんてのがある。
正直臨也には面倒臭い付き合いだった。もう下手したら一生会わないかも知れない奴らと何故酒など飲まなくてはならないのだろう。
クラスメートであった門田に愚痴ると、一生会わないかも知れないからこそ思い出に飲むんだろ、と言われた。なるほど、確かにそうかも知れない。しかし臨也には思い出なんて要らなかったが。
すっかり温くなったビールを飲みながら、クラスメートたちの会話に適当にあわせる。低俗な話題、低脳な考え。鬱陶しい。
「隣のクラスの奴らもいるらしいぜ」
ふとそんな声が聞こえた。
隣のクラス…どっちだろう。
なんて考えているうちに、周囲が静まり返ったので分かってしまった。

「あっれー。同じとこなんて偶然だね」
間延びした声に顔を上げれば、中学の頃の同級生。
周囲が固まっているのに気付いているだろうに、全く臆していない。
つまり、新羅がいると言うことは静雄のクラスと言うことだ。
臨也のクラスメートたちはビクビクしている。こんな居酒屋で喧嘩が始まったら大惨事だろう。
「静雄なら寝ちゃってるよ。お酒弱いから」
新羅のこの言葉で臨也の周囲は落ち着きを取り戻した。
「どうせ甘い酒ばっかり飲んだんだろ。シズちゃんビール苦手だし」
「甘いお酒ってアルコール強かったりするしね」
新羅は笑うが、門田はふと、臨也は何故静雄がビール苦手なことを知っているのだろう、と思った。
「静雄の寝顔が可愛いってうちのクラスの連中は写メ撮りまくってるよ。黙ってればイケメンだもんね」
新羅のこの言葉に臨也のクラスの連中(主に女子)がそわそわしだす。
「…どこで飲んでるの」
臨也は立ち上がった。
禍禍しいオーラを感じたのはきっと門田の気のせいだろう。
「隣の隣」
新羅は分かっているのかいないのか、空気を読まずにニコニコしている。
臨也が廊下をすたすたと歩いて行くのに、慌てた門田と新羅が続く。
臨也はその部屋に来ると戸を思いっきり開けた。
ピタッと。静雄に向かって携帯を構えていたクラスメートたちが固まる。
臨也は他のクラスだと言うのにずかずかと部屋に入り込み、転がっている金髪の青年の前に来た。
「シズちゃん」
足で軽く突っつくと、周囲が息を飲む。
臨也は静雄の傍らにしゃがみ込んで優しく頬を叩く。
「シズちゃん、起きて」
静雄は赤い顔をしたまま、ゆっくりと目を開いた。
「ん…、いざ…や…?」
「お酒弱いんだからあんまり飲むなっていつも言ってるじゃない」
「ん、」
「大丈夫?」
臨也が静雄の頬を撫でると、静雄は擽ったそうに目を閉じる。臨也はその瞼に口づけてやった。
「臨、也…擽ったい」
「帰る?立てる?」
「んー」
静雄は臨也の背中に腕を回すと肩に額を押し付ける。
「熱い…」
「ここで脱いじゃダメ。俺んち行こう?」
「…嫌だ。臨也変なことするし」
「今日はしないよ。多分」
「ほんとに?」
「多分ね。ほら立って」
臨也に抱き抱えられるようにして、静雄はフラフラと立ち上がった。
臨也は静雄の体を壊れ物でも扱うように優しく支える。
静雄の方はとろんとした顔をして臨也の手を握っていた。
部屋を出る時に臨也は静雄のクラスメートたちを振り返る。

「写メ、消せよ」

呪い殺しそうな目付きで見回しながら、臨也は静雄を連れて出て行く。
「あはは。俺は毎日あいつらのラブラブぶりなんて見慣れてるけどね」
新羅がまた爆弾発言をし、周囲が更に凍り付いた。
門田は頭痛に堪えながら二人を見送る。
「あれって…臨也もかなり酔ってるよな」
「臨也もお酒弱いからね。多分明日は二人とも記憶ないと思うよ」
あはは。
恐らくそう言った新羅もかなり酔っている。
比較的常識人である門田は一人頭を抱えた。
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