医者パロです。
臨也→外科医 眼鏡
静雄→小児科医


『心療カルテ』



「無理です」
白衣姿の臨也が、ポンっとカルテを机に投げ出した。眼鏡の奥の赤い目は冷たく、両手を組んで机に頬杖をつく。
「外科が万年ベッド数が足りていないのは、さすがの平和島先生でも知っていますよね?」
遠巻きに看護師達がその様子を伺っている。小児科の平和島先生と、外科の折原先生が仲が悪いのは、院内では有名な話だ。
静雄は白衣のポケットに両手を突っ込んで、忌ま忌ましげに溜息を吐く。
「知ってますよ。無理を承知で頼んでいるんです」
静雄は机に投げ出されたカルテに眼をやった。今朝方運ばれてきた子供。処置が早かったので命には別状はないが、入院する病室がなかった。小児科は満室なのだ。
「外科以外は?」
「精神科ならありましたけど、なんせ子供なので」
「現状のままでは駄目なんですか」
「ICUは次から次へと患者が運ばれていて、岸谷先生に早く出ろって催促されてるんです」
二人の間に沈黙が落ちた。
はぁ、と臨也が溜息を吐く。
「シズちゃん」
突然大嫌いな愛称で呼ばれ、静雄は眉間に皺を寄せた。
「高くつくよ、これ」
臨也はそう言って指でカルテを突っつく。口端を吊り上げて笑みを作った。
静雄はうんざりして舌打ちをする。
「三番ベッドのクランケを特室へ。教授には俺が話す」
臨也は遠巻きに見ている看護師たちに指示を出す。ざわっと、ざわめきが広がる。
「三番空いたらこの子入れて」
机の上のカルテを看護師に渡した。バタバタと看護師たちが散っていく。
「ありがとうございます」
静雄は礼を言うと、机の書類を手早く片付け始めた。早く立ち去ろうとしているのが見え見えだ。
「どういたしまして。シズちゃんが俺に頼み事なんてこの先もう一生ないかも知れないしね?」
臨也は笑い声を上げる。眼鏡の奥の目が、楽しげに細められた。
「その呼び方やめろっていつも言ってんだろ」
静雄はうんざりしたように言うと、苛々と白衣を翻した。
出て行こうとする背中に、臨也は声をかける。
「後で連絡するからね」
「……」
静雄は振り返ってきつい眼差しで臨也を睨み、そのまま出て行った。



「…あ…ぁっ」
はぁはぁと息を吐きながら、静雄は臨也の首に腕を回した。
「あー、シズちゃんの中はやっぱり気持ちいいなぁ」
内股に手をやり、深く腰を打ち付ける。パンパンと肉がぶつかる音がして、静雄は良すぎる快感に身を震わせた。
診察台の上で、白衣の男二人が体を繋げている。なんて滑稽な姿だろう。
「臨也…、も…」
「いきそう?」
静雄はブンブンと頭を縦に振る。目尻から涙が零れて耳元を濡らしていく。
臨也はその涙をべろりと舐めて、腰の動きを速めた。
「一緒にいこっか」
「いざや…んっ…あっ」
甘い甘い声で静雄が自分の名を呼ぶのに、臨也はうっとりする。
「シズちゃん…愛してるよ」
そのまま中に熱を吐き出した。


「中に出すなっていつも言ってるじゃねえか」
静雄はうんざりしたように言って衣服を整えた。腰は痛いし体は怠いし最悪だ。これから当直だってのに。
「ちゃんと掻き出してあげたじゃない」
文句言われる覚えはないよ、と臨也はしれっとしている。
静雄は消毒液臭いガーゼで精液を拭いて、ごみ箱に棄てた。気持ち悪い。
「なあ、特室大丈夫だったのか?」
「何が?」
「あの教授煩いだろ」
白衣の乱れを完璧に修正して、静雄は臨也を見遣った。
臨也は眼鏡をかけ直し、肩を竦めて見せる。
「あの教授には貸しがあるんだよ、色々とね」
「婿になるって噂を聞いたな」
「…誰が?」
「お前」
静雄は髪を直すと腕に嵌めた時計を見た。もうすぐ当直だ。
「…だから最近会ってくれなかったの」
臨也はふうん、と眉を顰める。
「噂に疎いシズちゃんの耳に留まるなんて相当だなあ」
「疎くて悪かったな」
むっとして静雄は不機嫌な顔になった。院内の噂話に興味がないだけだ。
「噂は半分本当だよ。見合いしてくれって言われた」
「へえ」
静雄は興味がなさそうに相槌を打つ。
「でも断った。結婚する気ないし」
「へえ」
また同じ返答をした。
臨也は片方の口端を吊り上げる。眼鏡の奥の双眸が楽しそうに静雄を見ていた。
「シズちゃんは分かりやすいね」
「……うるせえ」
僅かに赤くなった頬を手で隠し、静雄は悪態を吐く。
「だって俺が愛してるのはシズちゃんだけだしさ」
臨也はそう言って静雄の腰を引き寄せ、耳元に口づけた。ぴくりと静雄の体が震える。
「だから拗ねてないでちゃんと会ってよ、平和島先生」
「……考えておく」
臨也の笑い声と共に下りて来る唇を受けて、静雄は目を閉じた。






初めてパロなんて書きました。
(2010/08/10)
×
- ナノ -