変な話B

 静雄が炊飯器を新たに買いに来たのは、今朝いきなり壊れたからだ。もう五年ほど使っていたし、ちょうど買い換え時だったのかも知れない。長く使うと味が落ちるので、大抵は二年ほどで買い換えるのだという。
 量が少ない炊飯器の値段は安いが、それでも借金まみれの静雄には痛い出費だ。しかし毎日朝晩ご飯を炊く身としては、この家電は必要不可欠だった。
 高くても、一万ぐらいのやつでいいよな──余計な機能は要らないし──そんなことを考えていると、ふと静雄の視界が遮られる。目を覆う手の温もりに驚いて、思わずびくりと肩を跳ねらせた。
「なっ──?、てめえまだ居たのかよ!」
 自分の両目を後ろから覆う手を、乱暴な仕草で引き剥がす。自分にこんなふざけたことが出来るのは、世界広しと言えどこの男だけだろう。
「シズちゃんが無視するからだよ。」
 言葉とは裏腹に楽しげに笑い声を上げ、臨也は素直に静雄から体を離した。
「どれ買うか決まったの?」
「……、」
 てめえには関係ねえ──と言う言葉を寸前で飲み込む。このままではまた臨也のペースだ。無視しようと思うのに、いつの間にかいつも会話をしてしまう。


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