1月25日(金)別れ話C(終)

「…俺は、」
 静雄は一瞬考え込むように目を伏せ、また直ぐに顔を上げる。
「愛されてないってことはない。俺には少なくとも、幽やセルティや新羅やトムさんや──心配してくれる人達がいるし。誰にも愛されてないのは、寧ろお前の方じゃないのか。」
 静雄の言葉には何の感情の揺らぎも見えず、ただ淡々としていた。真っ直ぐにこちらを見つめて来るというのに、その茶色の瞳にはもう臨也は映っていない。
 臨也はそれを理解した途端、目の前が真っ暗になるような感覚に陥った。静雄が発したその言葉も、その眼差しも、なんの愛情も感慨も含まれていないことに絶望する。
「…し、」
 シズちゃん──と、臨也は呼び掛けようとしたのだろう。しかし何と話していいのか分からず、直ぐにまた口を閉じてしまう。
 静雄はもう退屈そうに他の方を見ていた。その手は胸ポケットを弄り、どうやら煙草を探しているらしいと知れる。
「話はそんだけか? 俺仕事中だから、もう行くぞ。」
 そうして臨也の返事を待たず、静雄はさっさと歩き出す。何も言えずにいた臨也がそれを見送れば、少し先の通りに静雄の上司が居るのが見えた。彼は臨也と目が合うと、軽く片手を挙げて見せる。
「あ、そうだ。」
 さっきの質問の答えだけど。と、静雄が不意にこちらを振り返った。サングラスに太陽の光が反射して、その目は臨也からは見えない。
「誰でも良かったわけじゃねえ。…でも俺は、」

 お前の告白を、受けるべきではなかったんだろう──。

 静雄は最後にそう言い残し、今度こそ上司が待つ場所へと行ってしまった。二人はこちらを振り返ることなく、池袋の街へと消えてゆく。
 残された臨也は、暫くただ呆然とそこに突っ立っていた。自分の信じていたものが、足許からガラガラと崩れてゆくような気がした。

 臨也は静雄に執着していた。初めて会った高校生の頃から約十年も、執拗に静雄を求め、干渉し続けて来た。時には殺そうとしたし、こないだまで愛してもやった。
 けれど、静雄の方はそうではなかったのだ──。

 その事実が臨也を絶望させていた。


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