1月18日(金)別れ話
「別れよう。」
そう言われた時、静雄はどうすれば良かったのだろう。
縋り付くことも出来ず、理由を問うことも出来なかった。静雄はただ頷き、その提案を素直に了承した。
熱に浮かされた恋情はいつか冷める──。
きっと結婚でもして、子供を成せればまた違った結果だったのだろう。けれど男同士ではそれは許されず、子供を孕むことが出来るわけでもない。
静雄にはいつだって後ろめたさがあったし、相手をセックスで満足させている自信もなかった。甘く、蜜月のように付き合っている最中でさえ、いつか終わりが来ることを予感していたような気がする。
高校生の頃に出会い、約十年──。長く続いて来た腐れ縁は、そこで遂に潰えた。
自分が平和島静雄に執拗なほどに執着している自覚が、臨也には昔からあった。
それが所謂恋と言われるものだと思ったのは、今思えば勘違いだったのかもしれない。いや、同じ性を持つ者と体を繋げることが出来たのは、やはりそこに愛情があったからだろう。臨也の性癖は至ってノーマルで、好んで男を抱きたいとは思わなかったから。
──そんな気持ちに疑問が浮かび始めたのは、一体いつからだったのか。
これは『恋』なのか?ただ彼を手に入れたかっただけではないのか。体を征服し、心も支配して、ただ束縛したかっただけではないのか。
膨らんだ疑問は心を蝕んでゆく。
元々が同じ性を持つ者同士。こんな関係は正常ではない。関係を絶つのなら早い方が良いのではないか。恋だと勘違いをしたまま、非生産的な行為を続けていいのか。
考えれば考える程それが正しい気がして、いつしか想いは冷めてゆく。抱けなくなり、口付けを出来なくなり、目を合わせることも苦痛になった。
世間から見れば、自分は最低な男なのだろう。相手を無理矢理にアブノーマルな世界に落とし、挙げ句捨てるなど。
けれどもその時の臨也には、別れることしか頭になった。
[ 13/34 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]