1月17日(木)料理の話A(終)

 何故そこで静雄の名前が出るのだろう──臨也は訝しげに眉根を寄せた。
「あ、その様子だと知らないんだ。」
 胡乱な眼差しを向ける臨也を見て、新羅は満足そうに唇で弧を描く。
「静雄って意外に料理が上手いんだよ。何度か食べたことがあるんだけど、とても美味しいんだ。」
「…へえ。」
 ほんの少しだけ驚きの表情を浮かべ、それから臨也は直ぐに無表情になった。あの男に関することを、他人の口から知らされるのは不快に感じる。しかしそれを表に出すのは矜持が許さない。
「食べてみたいな。」
 内心の不快感など表に出さず、臨也は口許に薄く笑みを浮かべた。長い付き合いの中で、静雄と共に食事をした記憶などない。まして料理を作る姿など、想像もつかなかった。
「あの静雄が君に作ってくれるとは思えないものね。」
 臨也の機嫌の悪さに気付いているのかいないのか、新羅はやけに楽しげな笑顔を浮かべる。その顔は一見人懐っこいが、きっと内心はろくでもないことを考えているのだろう。
 臨也は暫し考え込むように目を伏せると、やがてソファーから立ち上がった。
「今日の夕飯は決めたよ。」
「えっ?」
 まさか静雄に作って貰う気じゃ──。
 新羅の疑問をよそに、臨也はさっさと玄関口へと歩いてゆく。時計を見ればもう夕方で、確かにもう直ぐ夕飯の時間帯だった。
「どうするつもりなの?」
 慌てて見送りに来た新羅に、臨也は靴を履きながら笑い声を洩らした。
「取り敢えずシズちゃんを捕まえて──新宿にでも連れて帰ろうかな。」
「静雄がおとなしく付いて来るわけないじゃないか!言っておくけど拉致監禁は犯罪だからね?」
 新羅は一応注意するものの、それは自分たちにとっては今更な言葉だ。臨也は喉奥で薄く笑うと、扉のノブに手を掛ける。
「そのまま結婚でもしたら、毎晩食事を作って貰えるよね。」
「はあ?!」
 ぽかん──。まさに新羅はそんな顔になった。臨也の言葉は冗談にしては笑えないもので、一瞬花嫁姿の静雄を想像した新羅は青くなる。
「臨也だって笑えない冗談を──、」
「冗談かどうかはそのうち分かるさ。…またね。」
 唇にいつもの笑みを浮かべ、臨也は扉の向こうへ消えた。その足でどこに向かうつもりなのか──新羅としては考えたくはない。
「焚きつけちゃったことになるのかな、これ…。」

 新羅が本当の意味で後悔するのは、数ヶ月後。

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