1月10日(木)夕陽3(終)


「シズちゃんって、意外に繊細だよね。」
 臨也は軽い口調のまま、静雄の顔を見下ろした。ぼんやりとした様子の静雄は、先程から臨也の方を見ない。それにほんの少し苛立ちを感じながらも、臨也は笑って言葉を続ける。
「たかが夢なんだから、落ち込むことないのに。」
「別に落ち込んでるわけじゃねえよ。」
 低い声でそう答える静雄は、やっぱりいつもの覇気がない。臨也が知っている静雄はいつも怒りの表情ばかりで、こんな沈んだ表情は殆ど見たことがなかった。こんなことぐらいで落ち込む静雄が滑稽で、臨也は嘲りと怒りを同時に覚える。
 彼は恐れているのだろう。いつか、今見た夢のように、自分の力で誰かを殺してしまうことを。
 その化け物みたいな力で、誰かの生命を奪うことを。
 踵を折った上履きをブラブラさせながら、臨也は静雄の顔を暫くじっと見つめた。赤い夕陽が二人を照らし、窓から入り込む風が髪の毛をふわりと揺らす。静雄のぼんやりとした瞳は、まだ窓の外に向けられたままだ。
 ふとあることを思い付いて、臨也は口端を吊り上げた。乾いていた自分の唇を、舌でぺろりと湿らせる。
「ねえ…、その夢で殺した相手って誰?」
 俺の知ってるひと?
 そう問いながら、臨也は胸に昏い喜びが湧くのを感じていた。もし、自分の考えが当たっているならば、きっと歓喜に震えることが出来る。
 静雄は顔を上げ、やっと臨也の瞳をはっきりと捉えた。その赤い双眸に浮かぶ愉悦を正確に汲み取ると、内心で深く溜め息を吐く。

「…お前以外に誰がいるんだよ?」

 吐き捨てるようにそう言えば、臨也は声を上げて笑い出した。肩を震わせ、腰を折って、それはそれは愉しそうに。
「なんだ、そういうこと。」
 自分を殺して苦しむ静雄を見るのは、例え夢でだとしても最高に気分がいい──。直ぐに機嫌が極上になった自分の単純さに呆れながらも、臨也は笑うことをやめなかった。
「それは悪夢どころか──いい夢じゃないか。」

 その言葉に静雄からの返事は、舌打ちひとつだった。


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