なまえさんが数日前、不喜処へ来た。そんな話は直ぐ耳に入ってきた。
それも、シロさんをご指名で訪ねてきたそうだ。
(あんなに拒絶していたのにいったい何故?)
書類の山に目を通しながら思案する。そんな事を考えていたら判子が少しズレた。獄卒達が次から次へと報告に来るが、頭に入らない。
「息抜きに行きますか」
とりあえず、不喜処に。
不喜処近くの休憩所の横を通る際に、シロさんとなまえさんの姿が見えた。
何となく気まずい様な気がして、すっと物陰に隠れる。
なまえさんはシロさんとの距離をジリジリと詰めていく。恐る恐るすぎて少し焦れったい。
「動いちゃ駄目ですよ」
どうやらシロさんに触りたいらしい。どうしてそんな事を?と暫く物陰から二人の様子を見ていた。
「これで、きっと鬼灯様に好きになってもらえるよ!」
「そうかなぁ…」
暫くすると二人はベンチに座り、雑談を始めた。シロさんの口から理解し難い言葉が聞こえ、私は動揺する。
(なまえさんが私の為に?)
そこで思い当たる出来事を思い出す。前回、なまえさんに会いに行った際に、なまえさんは犬が駄目だと言っていた。
そして、私が動物に臆しない人が好きというのもなまえさんは知っている。
(可愛いことをしますね)
私は一人、口角が上がるのを押さえきれず、口元を手で隠した。
私の気持ち、伝えます
嬉しかったんです
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