昔、昔の話になる。

ふわふわの毛並みが揺れた。私の倍はあるであろう犬が目の前にいた。
幼く、小さかった私は、そんなぬいぐるみみたいな犬に怖がることはせず、近づいた。

犬はじゃれついただけなのだ。

ただ、私は小さかった。上に乗られてしまい、私からしたら襲われたも同然。
小さかった私は、泣きじゃくったが、それでも犬はじゃれつき舐められた。
食べられてしまう!と私は感じた。

それから犬がダメになった。自分より小さい犬でも怖い。






「シロさん、絶対動かないで下さいよ」


あと1メートル。
シロさんまでの距離をジリジリ詰めていく。シロさんはじっと私の手を見つめる。
そっと手を出して、シロさんに触れるまで、あと50センチ。


「…もうちょっと…!」


指先に柔らかい感触。シロさんの毛はふわふわとしていて、心地好いさわり心地だった。


「やったね!」
「ひゃっ!」

シロさんがいきなり喋るから、手を勢い良く手を引いた。


「あ、ごめんなさい…」


やっと触れたというのにこれではいけない。と、また手を伸ばす。


「動かないで下さい、そして喋らないで下さい」
「酷い…」


再度シロさんに触れる。
ふわりふわりと毛先が揺れた。そのまま手を滑らせ頭を撫でる。シロさんは気持ち良さそうに目を閉じた。


「…だ、大丈夫。もう喋っていいですよ」

「黙ってるのも辛いね…」
「すみません」


その後、シロさんには暫く付き合ってもらい、触れるようになった。
シロさんはお仕事があるから、と不喜処へと戻っていく。
私は今から休みを満喫する気にもなれず、大人しく家に帰ることにした。





貴方のために

私、頑張りました

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