何度目の夜になるだろうか。赤い月が今宵も空に浮かんで、私と鬼灯様へ光を落としていた。その光の中で鬼灯様は弱く、独り言の様に呟いた。


「もう頻繁にこれそうにありません」
「…そうですか」


いつもの様に手を繋いで、寮への道を二人で歩いていた。辺りは月の光が満ちていたが、一瞬で闇が降りた気がした。


「すみません」
「いいえ、いいんです」


鬼灯様の顔を見ると、鬼灯様は目を伏せていた。私はそのまま月を見上げる。
最初に会ったときと変わらない空気がそこにはあって、今日はあの日と同じ満月だった。



「私の夜遊びに付き合って下さって、ありがとうございました」



そう、これは偶然だったのだ。



「本当に、楽しかったです」



必然の様に思えた、貴方が私に会いに来るのが。



「また、お暇ができたら来て下さいね」



永遠だと、何故信じて居たのだろう。



「私はいつでも待っています」



繋いだ手が、握った手がそっと離れる。お互いの微熱を手のひらに残して。
その熱も、空気に触れて、さめていく。夢から現実へと引き戻される瞬間。


あんなに近くに感じていたのに、最初に出会ったときと同じ距離。

近すぎず遠すぎず。

何回も会っているのに、真新しい空気。声が出ない。


「また、お会いしましょうね」


それだけをどうにか絞り出して、私は歩く速度を早めた。鬼灯様の前を、顔を見られまいと早足で歩いていく。
微妙な距離が少し痛くて、最初に戻っただけだと自分に言い聞かせた。






霞んだ月夜













今宵手を繋いでいる
握りしめている
涙も含めて

出会いがついさっきのように
新しい空気


一人でそっと誓った






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