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メトロ/東京事変





赤い、赤い月が見える。
現世で見れば不気味に見えるそれが、地獄で見れば、地獄の景色に良く馴染み、雰囲気を醸し出している。


「あぁ、今日も月が綺麗だ」


誰に投げかける訳では無く、私はぽつりとつぶやく。


「えぇ、綺麗ですね」


それに答える様に声がする。
私は声のした方へと視線を向けると、赤い月の月明かりに照らされた影が見えた。はっきりと顔が見えるわけではない。慎重や服装から男だと言うことだけが分かった。


「お月見ですか?」


男は私に近づいてくる。柔和な声を出しながら。不思議と危機感は無かった。こんな晩に話しかけてくる男なんて、危険な者しか居ないであろうに。

風がゆっくりと吹き抜けていく。月に掛かっていた雲が流され、いっそう月明かりが私と男を照らし出した。


「月が…綺麗だった…から…」


私は男の質問に答えながら目を見開いた。月明かりで鮮明に見えた男の顔は、線が細く、整った、とても綺麗な顔つきだった。


「私も、今日は月が綺麗だったので散歩に来たんです。女性がこんな時間に一人きりは危ないですよ」


月明かりに照らされた顔は見たことのある顔で、私は少し首を傾げたが、そう考えもせずに答えは見つかった。


「鬼灯様…?」
「はい、そうですよ?」


テレビでももちろん見たことがあるし、閻魔大王様の第一補佐官だ、獄卒は皆知っている。


「鬼灯様もお散歩なんてするんですね、少し意外です」
「私を何だと思ってるんです?貴女、お名前は?」


クスクスと笑いながら鬼灯様に話かければ、少し眉間に皺を寄せた。名を問われ、私は名乗っていなかったことに気づく。


「申し遅れました、なまえと申します。衆合地獄に勤務しています」


軽く頭を下げ、鬼灯様に挨拶をする。


「では、なまえさん。もう時間も遅いですから、お送りしますよ」


鬼灯様はそう言うと、手を差し出してきた。私は少しためらったが、その手に自分の手を重ねる。鬼灯様の手はひんやりと冷たかった。


「冷たいですね」
「夜風にあたっていましたからね。なまえさんの手も冷たいですよ」


鬼灯様は私の手をきゅっと握って、引き寄せる。近すぎず、遠すぎず。私たちの間には微妙な距離ができている。
そして私の手を引きながら鬼灯様はゆっくりと歩きだした。

私は赤い月を見上げながら歩く。
冷えきった手の先に、少しだけ熱を感じながら。





赤い月










今宵赤い月を見上げながら
歩いていくのさ

微熱と手を繋いで






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