Request Thank you!
地獄にも春というのは訪れる。
始まりの季節、何かを新しく始める季節に、地獄にも新しく社会に出る新卒者がいる。そして閻魔庁も、もちろん新卒を採用している。
「新卒のみなさん、おめでとうございます」
集合地獄のとある居酒屋。マイクを握るのは閻魔大王第一補佐官の鬼灯。その隣には閻魔大王と第二補佐官のなまえの姿がある。
「今日は早く職場に慣れて頂くための歓迎会です。楽しく飲みましょう」
鬼灯達の前には新しく入った新卒の獄卒に、いつも鬼灯の周りにいる面々。今日は新卒の歓迎会。新卒達は堅い表情で、鬼灯のスピーチを聞いていた。
「羽目を外しすぎて不祥事の無いように。ちなみに、なまえさんは私のものですから手を出したりしたら阿鼻地獄程度で済むと思わないで下さいね。以上です」
真面目な挨拶の締めくくりに、鬼灯はドスの利いた声でスピーチを締めくくった。その発言に新卒達を含め、その場にいた全員の背筋が凍った。
話題にされたなまえは、肩をふるふると振るわせながら顔を真っ赤にしている。
「鬼灯様、何言ってるんですか!!」
なまえは立ち上がり、鬼灯のマイクを奪い取った。鬼灯は「何を怒っているのか」と頭を軽く傾けた。
「いや、最初に釘を刺しておかないと…」
「心臓を一突きにしないで下さい。みなさんの顔が凍ってます」
新卒達に至ってはどんな顔をしていいのか分からず、目を泳がせている。
「そうですか?」
「……仕切直しです。みなさん、楽しく飲んで下さいね」
「そそそれじゃ、乾杯しよっ!」
なまえは鬼灯から奪い取ったマイクで一言かけると、閻魔大王はさっとグラスを掴み、声を上げる。それに倣い、皆がグラスを手にした。
「乾杯!」
「「かんぱーい!」」
宴会も始まり、新卒達は先輩の獄卒達に酌をして回っている。鬼灯の発言のお陰でなまえに酌にくる新卒達は軽く挨拶をするだけで行ってしまう。これでは名前が覚えられないと、なまえは苦笑いをした。
そこへ閻魔大王が赤い顔でやってくる。ほろ酔い気分で、上機嫌の様だ。
「なまえちゃん大丈夫〜?」
「あ、はい!大丈夫ですよ、閻魔様もお飲みになられてますか?」
なまえが「どうぞ」と日本酒の瓶を差し出せば閻魔大王は手に持っていたグラスを差し出す。
グラスの半分程日本酒を注いだ所で、閻魔大王がなまえの持っていた酒瓶を止めなまえの手から奪った。
「はい、なまえちゃんも」
「ありがとうございます」
閻魔大王に日本酒を差し出されたので、なまえはあまり減っていない自分のグラスを差し出した。
「飲んでないじゃない」
「注ぎに来てくれるので、飲むのが追いつきません」
「そんなんじゃ駄目だよ!さぁ、飲んで!」
なまえは丁寧に断ったが、閻魔大王に煽られる形となってしまった。上司の勧めを断る訳にいかず、なまえはグラスを口へと運び、ぐいっと一気に飲み干した。
「飲めるじゃない!はい!」
なまえの手の中にある空いたグラス一杯に、再度日本酒が注がれる。
「えっと、閻魔様…私はこれぐらいで…」
「遠慮しない、遠慮しない!飲んで!」
「はぁ…」
羽目を外しすぎるなと、冒頭のスピーチでもあっただろうに。なまえは小さくため息をつきながら、少しずつグラスへと口を運んだ。
宴会はこれから
鬼灯様は忙しそうだな
←