ぴしゃりと水が跳ね、太陽の光でキラキラと光る。その反射の下には、金魚草が生き生きと跳ねていた。


「鬼灯様、お疲れ様です」


金魚草の声が聞こえる様になった事件は2、3日で通常通りに戻った。相変わらず金魚草は気持ち悪いと感じるが、鬼灯様が愛でているものなので嫌いではない。

金魚草に水をやっていた鬼灯様は私の声に気がつくと、こちらを振り向き会釈をする。


「なまえさん、仕事は終わったのですか?」
「はい!鬼灯様こそ、お疲れではないですか?」
「今、元気充電中ですよ」


鬼灯様の趣味である金魚草の世話が息抜きなのか、と私は庭に降りる階段の所に座り、鬼灯様を眺めた。



「鬼灯様、お疲れの時には甘いものが良いですよ」


私は鬼灯様に向けて手を差し出す。その手の上にはピンクの紙に包まれた飴が乗っている。そう、"あの飴"が。


「そうですね、いただきます」



そうとも知らず、鬼灯様は私の手から飴をひょいと掴む。私の隣に腰掛け、紙を剥がし、赤と白の飴を口の中へと放り込んだ。


「甘…」
「疲れに効くのですよ」


私はにんまりと笑い、鬼灯様の反応を見る。鬼灯様は口の中で飴を転がし、小さくなって来たのか最後は噛み砕いた。


「どうです?」
「…?美味しかったですよ?」
「そうではなく…!」


鬼灯様は首を傾げて私を見る。即効性はあまりないのだろうか?しかし、私が食べた時は直ぐに…


「この飴がどうかしたんですか?」
「……金魚草の声が聞こえた原因です」
「はい?」


鬼灯様はさらに首を傾げた。私は言っていいものかと迷い、飴の事を話した。


「鬼灯様は金魚草が好きなので、聞こえるようになったら面白いかなぁと思って」
「だからって、得体の知れない物を食べさせないでください」
「すみません」


鬼灯様の眉間に皺が寄った。殴られなかっただけまだ良かったのかもしれない。鬼灯様は耳を澄ませるようにして、金魚草たちを見渡した。


「とりあえず変化はない様ですね。少し残念な気はしますが…」


やっぱり聞いてみたかったのか。私は自分の恐怖体験を思いだし、身震いをした。
ふむふむと鬼灯様は何かを考え込んでいるようで、自分の中で結論が出たのか手をポンと叩いた。


「人間にしか効果は無いようですね」
「へ?」
「白澤さんも効果が無かったのでしょう?あれも神獣ですし、私も鬼です。桃太郎さんとなまえさんは人間でしょう?」
「あー!言われてみれば…」


妙に納得する答えで、私は頷く。鬼灯様に食べさせても無駄だった訳だ。あ、閻魔様に食べさせたら面白いかな、なんて考えが横に逸れだしたころ、鬼灯様の声が聞こえる。


「兎に角、あの白豚が全ての原因なのですね?」
「……まぁ、そうなりますね」
「ちょっと殴って来ます。なまえさん、後は任せました」
「え、ちょっと鬼灯様?!」


鬼灯様に食べさせる計画は私がしたのだけれど…と言うのは言えず、鬼灯様は金棒を持って歩いていってしまった。
白澤様には悪いことをしたなぁと思ったが、原因は白澤様が作ったのだから放っておく事にした。




仕返しは倍返し

悪戯は程々に。





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